【ニュース・イギリス】UKRIの元最高顧問:新たな英国版ARPA創設計画に反対

 
 2020年10月8日、Science Businessは、米国の高等研究計画局(ARPA)の英国版を創設するという政府の計画に対し、英国科学界に大きな影響を及ぼす二人が反対していることを報道した。前UKリサーチ・イノベーション(UKRI)最高顧問のMark Walport卿はUKRIと重複するものになるとし、元大学・科学担当大臣であるJo Johnson氏は、それは“破壊的”になると警告している。

 
 Johnson氏は、英国下院科学技術委員会において、既存の体制の職責が部分的に重複することなれば、英国高等研究計画局(BARPA)を創設することは“破壊的”であると述べた。

 
 また、「BARPAに設定された目標は、毎年60億ポンドの資金の配分を統括するために9つの独立したリサーチカウンシルを持つアンブレラ型の組織体で、最近創設されたUKRIを通して達成される。UKRIがなぜARPAのような組織を簡単に計画できなかったかはわからないが、はるかに自主性を持ったこれらのプロジェクトを実行するためにUKRI内に追加のカウンシルを創設するということは、我々が持っている既存の権限の範囲内である。そうすれば職責が部分的に重複する体制を創設するリスクがかなり低くなるだろう。UKRIの外に作られた新しい組織は軽率に我々の業績の良い科学資金制度に被害を及ぼす可能性があるとともに、UKRIが私たちのシステムにもたらした結束を、我々がバラバラにし始めるリスクがある。」と述べた。

 
 Johnson氏の兄であるBoris Johnson 氏とのブレグジットでの意見の相違で2019年に辞任するまで、3つの内閣において科学大臣として務めたJohnson氏は、UKRIの創設を統括した。彼はBARPAの創設までに最低でも18ヶ月はかかると述べた。新興で高リスクの科学技術を活性化させるため、5年間で8億ポンドの支援が約束されているBARPAの詳細は1年前に初めて発表された。下院議員たちはBARPAの概要がどのようなものか記されるグリーン・ペーパーを今もなお待っている。

 
 また、Johnson 氏は「その機能を定義するためにゆっくり進捗してきた。高いリスク、高い見返りであることは明確な使命ではない。UKRIにその権限を使わせ、これをすばやく進める時が来た。そうでなければ我々はもう1年半無駄にするかもしれない。」と付け加えた。

 
 BARPAを創設する大きな理由はEU離脱である。EUとの研究関係の結びつきを弱めるその決断は、EUの研究プログラムの最終的な受益者であった英国がその代替資金なしでリスクにさらされるという認識を高めている。

 
 BARPAの支持者は、米国と中国の企業が新興の科学分野での競争に打ち勝つ中で、国はリスクの高い技術に資金を工面するという、より大きな役割に挑む必要があると主張している。Johnson氏はブレグジットの立案者の一人であり、BARPA創設の主な牽引役である首相の上級顧問Dominic Cummings氏とは何度も対話を行ったと述べた。

 
 Cummings氏の国防高等研究計画局(DARPA)への称賛は、彼のいくつかの長文のブログ記事でも現われている。2017年の記事では、英国は、少人数のグループが巨大なブレークスルーを少ない資金であるが、適切な体制でいかに起こしているかについて一生懸命考えるべきだと述べた。

 
 UKRIはその創設時には、より中央集権化された財政的支援手法は、うまく機能しかつ英国が多くの科学分野において世界を牽引することに貢献していたシステムを取り消すことになると警告する幾人かの科学者がおり、例外なく受け入れられたわけではなかった。Johnson氏は「我々の最適な科学システムを考えることに意欲的である。UKRI創設の背後にある考えは財務省にたった1つの説明責任を提供することにあった。私はこれが失われることを心配している。」と述べた。

 
 BARPAの難題は、“影響力を見つけること”であるとUKRI創設時の長であり退職した Walport卿は述べた。「重大な問題はどれだけ政府が必要とする革新を進んで受け入れるかである。」と彼は下院議員に延べた。さらに「ARPAと他の同様な資金配分機関が米国で成功している理由は、それらが政府の中に顧客を持っているためである。DARAPの場合は防衛省であり、エネルギーのプロジェクトの後ろ盾となっているエネルギー高等研究計画局(ARPA-E)の場合はエネルギー省(DOE)である。なお、UKRIはすでにBARPAが交付することになっている挑戦主導型資金を支援している。UKRIは挑戦主導型の科学をしないということを念頭において創設されているというのは正しくない。我々にはARPA-Eによく似た、例えば電池に関する課題などのような挑戦主導型のものがいくつかある。」と述べた。

 
 米国版の成功はブログラムディレクターの極端に高額な報酬にもよるものである一方で、給料の見込みは英国の同等な職ではより低くなっている。

 
 他の注目に値する違いは、DARPAの予算は年間約35億ドルであるのに対し、英国のDARPAに対応する組織は年間数億ポンドから始まることである。「8億ポンドの予算では1か2つしか大きな課題に取り組むことができない。」とWalport卿は述べた。

 
 これを考慮すると、新しい資金配分組織をUKRIの中に用意することは賢明だろう。「UKRIは時代遅れのものではない。たった2歳になったところである。これまでのところ問題なく運営している。」とWalport卿は述べた。UKRIは、自らを確立するためにより多くの時間が与えられ、細かい点に至るまで管理されるというよりはむしろ活動に自主性を持つべきである。
 


Science Business: UK science chiefs push back against plan for new DARPA-like funder

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