【ニュース・イギリス】EU離脱後の英国研究開発:いかにして「科学超大国」の肩書きを守るか

 
 2020年10月6日、Science Businessは、英国最大の医療慈善団体ウェルカム・トラストが発表した新しい報告書の内容を報道した。

 
 報告書では「もしEU離脱後、“国際的な英国”を構築するという英国政府の公約を果たすのであれば、英国政府は外国人研究者のビザ申請費用を削減し、国際共同研究のための新たな財政支援の仕組みを創設し、Horizon Europeに調印すべきである。」と述べられている。

 
 報告書の英国及び海外の著名な研究者へのインタビューによると、「“国際的な英国”を実現するためには新たに二国間もしくは多国間の協定を支援する資金が必要になるだろう。その一方で英国はヨーロッパとの研究関係において強い結びつきを維持する必要がある。世界で最も研究集約的なエリアは英国の最も近くにある。」と述べられている。英国を含むヨーロッパは人口が世界人口のわずか7%で世界の科学論文の3分の1を生み出している。

 
 また、報告書では「科学超大国を目指すどの国も、EUの科学における強みと優秀な人材密度の濃さから、EUと効果的なパートナーシップを持たなければならない。英国はEU離脱移行期間が終了する今年の12月で、EUとの研究プログラムにおける“正式な影響力のある役割”を失うだろう。それでも政府は世界中で研究関係を構築する第一段階としてHorizon Europeに完全参加できるようにあらゆる努力をするべきである。EU加盟諸国は2021-2027年のHorizon Europeのプログラムにおいて自身が投資した以上の資金を獲得するために競争を行うであろう。これにより、もし英国がHorizon Europeに参加しない場合、現在のEUのパートナーと英国の連携のレベルを維持することが困難となる可能性がある。」と述べられている。

 
 「もし、アイルランドの研究者が新たな二国間協定を通じて英国との研究を継続したいのであれば、英国がEUを離脱したために我々がEUに支払うがある追加の資金に加え、EUに対し、場合によってはさらに1億5,000万ユーロを捻出する必要がある。」とアイルランド政府の主任科学顧問であるMark Ferguson氏は述べている。

 
 報告書では「EUとの公式な共同研究は、世界中の国と新たな関係を構築することに対して緊張状態はない」としている。

 
 しかし一方で、一部のものが多国間の組織の役割に疑問を持っているのであれば、英国はその優先事項を支援する“有志の連合体”を構築するため一生懸命かつ戦略的に取り組む必要があるだろう。

 
 人工知能のような固定観念を覆すような革新的な技術に通じるために、英国は共通の基準や規範設定を進めるための世界的な規制フォーラムを主催するべきである。また英国政府は様々なトップダウン型の国際研究プロジェクトの後ろ盾となる“敏捷性を高める資金”を設立するべきであると報告書では述べられている。

 
 この資金は、英国外のプロジェクトの後ろ盾となる際の自発性と柔軟性を可能とするだろうと、アランチューニング研究所の所長であり、英国王立協会 次期会長であるAdrian Smith 氏は報告書のインタビューで語っている。

 
 加えて、同人は「英国の資金制度は、最近グローバルなステージにおける俊敏性がそれほど高くない。もし我々が二国間及び多国間の協定において英国の位置付けを再定義する必要があるならば、これを可能とする制度が必要である。」とも述べている。

 
 なお、報告書は上記以外の提案として、英国を訪れる研究者やそのチームのビザ申請費用の削減を求めている。英国は他の国と比較するとビザ申請費用はかなり高額であり、10月からこれらの人向けのいわゆる健康保険付加料が年間624ポンドに値上がりする。これは5年間のグローバルタレントビザを4人家族で申請する場合13,000ポンド以上の前払い費用がかかることを意味している。対照的にフランスの場合は同じ家族で同様なビザを申請した場合はおおよそ1,000ポンドである。


Science Business: UK R&D post-Brexit: How to live up to the title of ‘science superpower’

地域 西欧
イギリス
取組レベル 国際機関レベルの取組、政府レベルでの取組
行政機関、組織の運営 政策・経営・行動計画・評価
大学・研究機関の基本的役割 研究
国際交流 国際化、研究者交流