【ニュース・イギリス】高等教育研究法 (2017)制定

2017年4月27日、議会は高等教育研究法案を可決した。これはこの25年間で高等教育機関にとってもっとも重要な法律といわれ、今後長期にわたりすべての高等教育機関の法的な基盤となる。

 

高等教育研究法(2017)の概略

  • 来年度、大学の業務監査及びファンディングの機能を持つ学生局(OfS:Office for Students)が新しく設立される。学生局は高等教育機関の質や基準に関する法的な責任を担い、高等教育への新規参入の承認を高等教育機関登録簿によって管理し、又大学の称号や学位授与権を付与する権限を持つ。
  • 学生局は現在、教育評価制度(TEF:Teaching Excellence Framework)といわれる大学教育の質評価の実施準備の権限が与えられる。TEFはすでに試行されており(6月に第二回目の結果発表予定)大学は金銀銅で評価される。TEFは2019年末までに実施方法の評価と見直しが行われる予定である。
  • 2020年まで、政府はTEFに参加し最低限の条件を満たしている大学に対して、物価上昇率に沿った学費の値上げを許可する。2020年以降は、学費の値上げはTEFの評価結果と連動することになる。
  • 学生局は大学の質と基準に関連してその法的義務を遂行する独立機関を指名することができる。
  • 学生局は公正機会局(OFFA: Office for Fair Access)の機能を統合する。大学は、学生の入学の公平性に関する情報や留学生にとって有益と思われる情報を公表しなければならない。又学生局は高等教育機関の財政状況の監視および効率の改善に関する権限も持つ。
  • 大学は通常よりも短期集中型の授業コースに対して通常より高い授業料を提示することが可能となる。学生ローン会社はこれまで宗教上の理由などで学生ローンを受けることができなかった学生にも代替の資金調達方法を提示することが可能になった。
  • 7つの研究会議(Research Councils)、イノベーションUK, 及びイングランド高等教育財政会議(HEFCE:Higher Education Funding Council for England)の研究関係部門は“1つの戦略的研究機関”であるUKリサーチ・イノベーション(UKRI:UK Research and Innovation)に統合される。研究会議はUKRI内で現在の構成を維持するが、会計に関しては共通の責任者が監督する。現在の業務は継続するが、新たに学際的研究の責任を担う。新設のリサーチ・イングランドはQR(Quality-related Research)ファンディング*を担当する。

*QR(Quality-related Research)ファンディング:従来HEFCEが配分してきた研究の質評価(研究評価制度、REF:Research Excellence Framework)に基づくブロック・グラント。

 

WONKHE:Be it enacted:The Higher Education and Research Act

 

【関係機関の反応】

○英国大学協会(UUK:Universities UK)
同協会の会長である Dame Julia Goodfellow 氏は「世界レベルの大学を持つ英国にとって、現在の先行き不透明な時期に確固とした新しい法律が制定されたことは喜ばしい。我々は新しい法律制定の必要性に同意していたが、当初の法案には問題があった。しかし上下院議員および、関係閣僚や関係者の多大な努力により最終法案は大幅に改善された。特に、大学の独立性や基準を保護し、大学の称号や学位授与権の付与に対して高い基準を設けたことは喜ばしいことである。又我々の大学の海外での評判向上のための新たな国際戦略が策定される、という本日の大臣の声明には大きな希望を持った。しかしながら我々はこれからも職員や学生のため、もっと進歩的な移民法の制定に引き続き努力する所存だ。」と述べた。

 

Universities UK:Response to passing of the Higher Education and Research Bill

 

○Times Higher Education
高等教育研究法が成立し、英国の大学はさらにマーケット・アプローチを強めることとなった。しかし、政府は、高等教育機関の新規参入を開放し、大学の競争と学生の選択肢を増やす必要がある、という当初の政府案に対する変更を受け入れた。また、新しい教育評価制度(TEF:Teaching Excellence Framework)と授業料値上げを連動させる仕組みの導入を、専門家による再検討の結論が出るまでは延期することに合意した。

 

労働党は2017年6月8日の総選挙のため現行の議会が解散する5月3日を前にした駆け込み期間に、未処理の法案を通過させるため政府からの譲歩を勝ち取ったことになった。

 

上院で反対にあったこの法律により、大きな権限を持つ学生局(OfS:Office for Students)が新設されるが、これはイングランドの高等教育にとってはマーケット式の業務監査機関であり、英国の研究助成の構造も大きく変わることになる。

 

しかし、上院からの修正案として留学生数を移民数制限に含めないよう求められたが、政府はこれを拒否した。メイ首相は強い圧力をかけられたが、修正案に同意しなかった。この修正案を提出した Hannay 卿は政府から「もし修正案が残っているのであれば、法案全体を無効にする。」という上院に対する脅迫があったと述べている。

 

法律は成立したものの問題はまだある。私立の高等教育機関について、上院議員達の懸念は、現行では4年間の審査期間を経てから学位授与権が付与されるが、今後は学生局が新規高等教育機関の運営開始時からその権利を与える、とされていたことであった。これに対して政府は法案の修正を受け入れ、学生局が学位授与権を付与する前に、適切な機関より助言を受けることとなった。大学大臣の Jo Johnson 氏は「この役割を果たすのは大学質保証機関(QAA:Quality Assurance Agency)に相当する機関になるであろう。新しいシステムはこれまでのQAAの長年にわたって培ってきたものを取り入れていく。」と述べている。

 

新規参入機関の大学の称号使用についても、政府は、上院からの修正案を受け入れ、今後作成されるガイドラインを踏まえて学生局は大学の称号使用の許可を出すこととなった。

 

又政府は、教育評価制度(TEF)が学費に反映されることがないように、という上院の修正案を退けたが、TEFが学費値上げに反映される仕組みの導入は3年間、延期された。上院議員が持つTEFの評価項目に関する懸念に対して、政府はTEF結果の学費値上げへの反映の仕組みを導入する前に、統計などを利用して実施方法の評価と見直しを行う、という修正を加えた。

 

Times Higher Education:Higher Education and Research Bill passed by UK parliament

 

○BBC News
イングランドのほとんどの大学は2020年まで毎年学費の値上げが可能となった。当初の法案は教育評価の結果により学費の値上げを可能にする予定であったが、これは2020~2021学事年度まで行なわれないこととなった。それまでは教育の質とは関係なく、物価上昇に伴う値上げが可能となった。

 

2017年は£9,250に上がる予定で、学生ローンの利率はこの秋から4.6%から6.1%に引き上げられることとなり、すでに問題視されている。

 

高等教育研究法案は議会上院において多数の修正案を提出されていたが、一連の妥協案が総選挙前の議会解散の前に議会を通過し法律として制定された。

 

教育評価制度(TEF)は導入されるが、この評価結果はこの先3年は学費の値上げには連動しない。それまでは、TEFに参加している大学は物価上昇に伴い毎年学費の値上げが可能となる。

 

BBC News:University fee increases pushed through

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