【ニュース・イギリス】長期的教育成果の結果(2015/2016学事年度分)

 
2018年3月15日、教育省(DfE:Department for Education)は、長期的教育成果(LEO:the Longitudinal Education Outcome)の2015年から2016年にかけての結果を発表した。
 
LEOのデータには下記のものが含まれている。

  • DfEのデータ
  • 雇用年金局(DWP:Department for Work and Pension)と英国歳入税関庁(HMRC:Her Majesty’s Revenue and Customs)のデータ

今回の試行的な発表は、2014年~2015年及び2015年~2016年の課税年度における、卒業から1、2、5そして10年後の高等教育卒業者の雇用及び収入を見るためにLEOのデータを用いている。今回の発表では、初めてEUや海外からの留学生の成果が含まれており、また継続教育カレッジに入学していた者も対象とするために範囲の拡大が行なわれている。
 
GOV.UK:Graduate outcomes (LEO): 2015 to 2016[報告書PDFあり]
 

【メディアの反応】
 
○Wonkhe
 
 Wonkheは、DfEがLEOデータの5回目の試行的公表を行い、そこでは驚くべき更新があったと報じた。多くの新たな詳細説明や、追加の国際統計など、沢山の分析すべきデータがあるとしている。
 
 Wonkheが掲載した、今回の発表から学ぶべきとされる教訓:

  1. 過去の成績はこれまで以上に重要
    過去の成績分類によって年間収入が1万ポンド以上も変わる。
  2. 住むならばイングランドの南や東
    ロンドン以外では、イングランド東部及びイングランド南東部に家のある学生が最も高い収入を得ていた。
  3. 地域進学率データ(POLAR:Participation of Local Area)が傾向を示している 歴史的に高等教育進学率の高い地域の学生の方の収入が高い。これは全体で一致した傾向であり、以下のことを示唆している:
    ・社会経済的な背景が、収入を予測する上で大きな要因であり続けている
    ・POLAR3はこのことについてよい代用品となる
  4. 無料給食データの謎
    予想どおり、無料給食を食べていた人たちは全体を通じてより低い収入であった。興味深いことに、無料給食を食べていたかどうか不明である人たちは、全体を通じて最も収入が高かった。これは、しばしばそのようなデータがない私立校へ(彼らが)通学していたということに繋がるのだろうか?
  5. パートタイムやサンドウィッチ課程※※はフルタイムより暮らし向きがいい
    驚くべきことではないが、サンドウィッチ課程の学生は他の学び方の学生をしのぐ非常に高い収入を得ている。一年間を現場で過ごしているため、これらの学生はより豊富な労働経験(そして豊富な伝手)を持って卒業生市場に入ることになる。しかし、最近のパートタイム学生の統計群は、フルタイム学生より平均的に収入が高いようにも見える。近年のパートタイム教育への助成の変化のため、これはより成熟した、経済的に裕福な(そして小規模な)集団のことを反映している可能性がある。
  6. 実家通いの学生は収入の成果が低い
    高等教育期間中に自宅以外に住んでいた者の方がより多くの収入を得ている。自宅通学の学生は経済的な理由でそうしているのであり、そのため、このことはさらに、収入に関する既存の裕福さの影響を反映したものでもありうる。

※POLAR:英国全土で若者がどれだけ高等教育に進んでいるかを見て、またそれが地域ごとにどう違うかを示す統計。各地域で高等教育に進んだ18―19歳の人口に基づき、各地域を5段階に分けたもの(1が低く5が高い)
 
※※サンドウィッチ課程:大学で最終学年の前年に1年間の職務経験を体験する制度のある課程。
 
1ポンド≒148円(2018年3月15日)
 
Wonkhe:A first look at the latest LEO data[2018年3月15日付け]
 

○the Guardian
 
ガーディアン紙は本件や関連する政府の動向について以下のような事柄を報じた。
 
大学は、卒業生がどれだけ収入を得ているかによって学術的な教育内容をランク付けするという政府の計画を批判してきている。学長たちは、看護士、ソーシャルワーカー、警官などのための重要な課程を、それらの課程に期待できる収入が低いために、切り捨てざるを得なくなると警告している。
 
政府の矛盾する教育評価制度(TEF:Teaching Excellence Framework)は昨年夏に導入されたが、既に大学に金銀銅のランク付けを与えてきている。大臣たちは現在、教育の質を科目レベルで評価することを計画しており、卒業生の給与収入に新たな重点を置こうとしている(注:次回実施からは卒業後の収入状況のデータを加味した教育・学生成果評価制度(TEF:Teaching Excellence and Student Outcome Framework)として実施される予定である)。
 
Northampton UniversityのNick Petford学長のコメント:
 
政府によって給与の上限が抑制されているのだから、公共部門へ就職する高等教育機関の卒業生の給与を教育の優秀さに結び付けるのはばかばかしいにも程があるだろう。
 
我々は看護士に支払われるべきもの(の決定)について何の権限も有していない。しかし、我々は国が求める素晴らしい看護士の供給の一助を担っていることをまさに誇りとしている。
 
どれだけうまく意図したとしても、ありのままの情報が比較装置として使われたとしても、そのデータ(注:政府が用いている、就職した学生の動向を調査した長期的教育成果(LEO:Longitudinal Education Outcomes)のデータ)は制度を不安定なものにするだろうし、一部の課程を危機にさらすだろう。
 
もし、卒業生の給料に基づいて、X大学がY大学より良いと真面目に信じているのであれば、それは成り行きとして、痴呆症専門の看護士や小学校教員の養成課程よりも、獣医や銀行員の教育を行う課程をえこひいきしているということになる。
 
The Guardian:New university rankings ‘put nursing and social work degrees at risk’[2018年3月27日付け]
 

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