2018年7月12日、政府はEU離脱に関する英国議会への報告書(以下、「白書」)を公表した。
白書では、白書に示された内容を元に今後EU側と協議を行い、離脱協定及び将来枠組みを策定していくとされている。(注:なお、以下にもまとめているが、EU側はこの提案内容の一部について事実上拒絶している)
この白書では、英国のEU離脱に伴って現在の協力関係によるメリットが失われることを背景に、科学・イノベーション分野や文化・教育分野、宇宙関係分野など5分野を対象とする新たな協力協定を英国とEUの間に結ぶことが提案されていた。また、現在の移動の自由は撤廃しつつも、教育や研究等に支障のない形で人の移動を担保する枠組みも想定されていた。
GOV.UK:The future relationship between the United Kingdom and the European Union
(参考:白書の要点をまとめた記事)
The Guardian:What’s in the Brexit white paper?
○英国大学協会国際部(UUKi:Universities UK International)/Vivienne Stern取締役
世界的研究者や留学生を惹きつけることの重要性が認識されたということは励みになるコメントした。また、学生や教職員が留学や研究協力を行っていく上で必要となる確実さを示せるよう、可能な限り早期に合意に達すべきであることを英国政府とEUに喚起する、とした。
○財務省(HM Treasury)
離脱協定が成立しないまま英国がEU離脱に至った場合であっても、企業や大学等がEU実施の事業により確保している一切の資金が、2020年末までの間は英国政府によって保証されると発表した。
加えて、ホライズン2020のような事業計画を通じて欧州委員会(EC:European Commission)から直接資金を取り付けようとしている英国の機関の資金もまた、離脱協定が成立しないまま英国がEU離脱に至った場合であっても、2020年末のEU予算の期限までは保証されるとした。
○EU/欧州委員会(EC)のMichel Barnier首席交渉官
同白書の内容の一部に関して事実上これを拒絶する趣旨のコメントを欧州委員会のウェブサイトで発表した。
Barnier首席交渉官のコメントで論点となっているのは2点で、1点目は北アイルランドとアイルランドの間に国境があることに由来する北アイルランドの扱いであり、2点目は、英国側が物の自由な移動を求めつつも人とサービスの自由な移動は拒んでいる点がEUの単一市場構造を蝕むものであるため、とされている。
○王立協会(The Royal Society)/Venki Ramakrishnan会長(注:ノーベル化学賞受賞者)
こうした状況を踏まえ、離脱協定が成立しないまま離脱期限を迎えた場合に生じうる、英国科学や英国の将来の繁栄そのものへの影響を強く懸念する内容の記事をインディペンデント紙に寄稿した。
同記事では、協定未成立での離脱について「英国科学界にとっての災厄」とし、また「切れるカードがなくなり交渉が緊迫してきた場合、イデオロギーの名の下に科学が犠牲となりかねない」、「政府の白書に科学及びイノベーションの項目はあるが、現段階では言葉だけでしかない」などの強い表現を用いつつ、経済面や国内先端医療などへの影響も引き合いに出しながら、協定未成立での離脱や交渉の先行きの不透明感に対して警鐘を鳴らしている。