【ニュース・イギリス】産業戦略白書の発表

2017年11月27日、ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS:Department for Business, Energy&Industrial Strategy)の大臣である、Greg Clark氏は政府の野心的な産業戦略を発表した。

 

発表内容の概要:

経済強化を図り、英国の得意分野に基づき技術革新の機会を利用する計画として同省の最重要な取り組みである産業戦略を立ち上げる。
イノベーション創出のための産業戦略チャレンジ基金(ISCF:Industrial Strategy Challenge Fund)プログラムに£7億2,500万(約1,090億円*)を投資する。
世界トップクラスのライフサイエンス企業MSDが英国への投資を確保したことで産業戦略を開始する。
建設、人口知能(AI)、自動車、ライフサイエンス分野において、初の試みである “セクターディール(Sector Deals)” へ取り組む。
4つの “大きな課題” を生かし、将来産業の最前線の座に英国をすえるため世界的なトレンドを掴む。

産業戦略において定められた4つの大きな課題(Grand Challenge)は、以下のとおり。

  • 人工知能(AI)
  • クリーン成長
  • 高年齢化社会
  • 物流、人の流動性

2030年までに世界で最も革新的な国になることを目標に、政府は地球規模課題に対応するため、今後3年間で£7億2,500万(約1,090億円*)をISCFに投資する。このうち£1億7,000万(約255億円)が建設部門に投資され、より安全で健康的、かつ省エネの手ごろな価格の住宅やオフィス環境の開発に取り組むこととなり、また、医療においては早期診断の向上や、精度の高い医療の開発に最高£2億1,000万(約315億円*)の投資などが予定されている。

 

政府は第1期ISCFとして£10億(約1,500億円*)の投資を約束しており、その中には次世代バッテリーテクノロジーへの£2億4,600万(約369億円*)、及び英国中のロボッテックハブへの£8,600万(約129億円*)が含まれている。
2017年11月20日、メイ首相は研究開発費の投資水準を2027年までにGDP1.7%から2.4%に引き上げることを発表している。これは今後10年間、先端技術分野に£800億(約12兆円*)を追加投資し、新産業やイノベーションの創出を支援していくことを意味している。

 

白書には政府が民間との共同出資によって長期的な提携で取り組んでいくために、建設、ライフサイエンス、自動車、人工知能の分野において様々な “セクターディール(Sector Deals)” 活動に取り組むことも含まれている。ライフサイエンスのセクターディールとして、MSDが英国に対し大規模な投資をすることを発表した。最先端の治療方法や薬の開発などが活動内容となる。また、最先端研究施設を英国内に建設し、950人の雇用も創出される予定である。

 

白書では5つの基盤に焦点をあわせ、政府、学術界、産業界のユニークなパートナーシップのもとで生産性が高く、将来世界において競争力のある英国経済を作り上げていくこととしている。

5つの基盤:

  • アイディア:2027年までに研究開発投資の総額をGDPの2.4%へと引き上げ、研究開発投資による税額控除を12%にまで拡大する。ISCF事業に£7億2,500万(約1,090億円*)を投資する。
  • 人々:技術教育制度の確立。£4億600万(約609億円*)を数学、デジタル、技術教育に投資し、STEM(Science, Technology, Engineering, Mathematics)分野の人材不足解消を図る。新しい「職業再訓練制度(National Retraining Scheme)」を立ち上げ、£6,400万(約96億円*)をデジタル及び建設技能のトレーニングのために投資する。
  • インフラ:英国生産力投資基金(NPIF:National Productivity Investment Fund)に£310億(約4兆6,500億円*)を増資し、輸送、ハウジング、デジタルインフラ整備を支援する。電気自動車開発のために£4億(約600億円*)、更に£1億(約150億円*size:13px;”>*)をプラグイン車導入の補助金として出資する。£10億(約1,500億円*)以上をデジタルインフラ整備のために出資し、5G(第5世代移動通信システム)の整備やファイバーネットワークが脆弱な地方の整備を行う。
  • ビジネス環境:分野の生産性を向上させることを狙いとして、政府と産業の協力関係である “Sector Deals” を設ける。ライフサイエンス、建築、人工知能、自動車の各分野で最初の “Sector Deals” が設けられる。革新的で高い可能性を持つ事業に向けて£200億(約3兆円*)以上の投資を呼び起こす。どういった行動が中小企業の生産性を改善する上で最も効果的かについての評価作業を行う。
  • 場所:地方を強化し、経済面でのチャンスを広げるために、地方の産業戦略に合意。新しい都市転換基金(transforming cities fund)を創設し、都市間交通の整備のために£17億(約2,550億円*)を出資する。教員育成プレミアム(Teacher Development Premium)事業に£4,200万(約63億円*)を出資し、成績が伸び悩んでいる学問分野の教員の育成に努める。

*£1を150円にて換算

 

GOV.UK:Government unveils Industrial Strategy to boost productivity and earning power of people across the UK

 

【各機関の反応】

 

英国学士院(British Academy)/経営最高責任者Alun Evans氏
前例のない変化の時代において我々や社会について理解することは重要になっている。つまり政府の産業戦略の中心が人文社会科学なのである。政府の掲げたチャレンジは人文社会科学から多くの思索と洞察力が求められるものである。我々の特別研究員制度を利用する優秀な研究者と継続的に連携し、政府の産業戦略への支援と情報提供に協力していきたい。

 

BRITISH ACADEMY:British Academy responds to Industrial Strategy White Paper

 

王立協会(The Royal Society)/Venki Ramakrishnan会長
我々の強みである知識基盤経済(knowledge-based economy)に投資するという政府の産業戦略は、英国は世界の研究・イノベーションのリーダーであるという自信ある前向きなメッセージを発信している。新たな研究開発への投資は技術開発の最先端に居続けるために必要な人材、アイディア、機関への支援をさらに強化するということである。将来のための賢い投資だが、次世代の新産業や繁栄の基礎となる新しい知識を得るためにも、基礎科学への投資も継続して必要であることも確認しておきたい。

 

THE ROYAL SOCIETY:Royal Society responds to new Industrial Strategy

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イギリス
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