【ニュース・イギリス】新「科学・イノベーション戦略」を発表

2014年12月17日、政府は新「科学・イノベーション戦略」を発表した。本戦略は、「卓越(excellence)・機敏(agility)・共同(collaboration)・機会(place)・開放(openness)」の5本柱に拠り、将来的な科学の研究発展を目指す。中でも、2016年から2021年という長期設備投資計画に合計£59億の予算を配分することが目玉となっている。同戦略は、もともと12月上旬発表の秋期財政報告書(Autumn Statement※)と併せて発表される予定であったため、いくつかの予算配分計画については既に同報告書で発表済である。
また、本戦略作成にあたって、長期の研究設備投資等の重要ポイントを含めて各関係機関と協議した結果も同日公表されている。
更に、本戦略と併せて、Paul Nurse氏主導によりRCUK(英国研究会議)組織・制度に関する検討項目を列挙した「Nurse Review」を発表。今後、この項目に沿って、どのような形でRCUKを管理・運営していくのが最も研究事業に効果的となるのかを検討していく。Paul Nurse氏は、王立協会(The Royal Society)理事長を務めており、今年度開所予定である多分野融合医学研究所「The Francis Crick Institute」の初代所長に就任予定。

※予算案と並んで年1回政府が発表する最重要財政報告書。政府の収支・借入が当初の予測と比較してどうなっているのかを最新のデータで測定し、必要に応じて政府が当初の経済目標を達成するために今後の予算案を変更・修正するもの。(詳しくは、「海外高等教育情報および学術情報」v14-9号「英国」を参照のこと。)

「科学・イノベーション戦略」の主なポイントは以下の通り。

【6重点課題】
(1)優先分野の決定―産官学一体となり、経済成長へとつながる優先事項「8大テクノロジー」(※1)、「産業戦略」(※2)等を策定。

(2)科学における人材育成―初・中・高等教育、継続教育カレッジ、職業研修など全ての教育・研修課程においてSTEM(科学・技術・エンジニア・数学)科目により力を入れる。また、大学院生向け学生ローンシステムを整備する。

(3)研究設備投資―最先端科学研究にインフラ整備は絶対不可欠であるため、2016年から2021年という長期プランを設定し、合計で£59億の予算を配分する。

(4)研究助成のあり方―二大公的研究助成機関であるイングランド高等教育財政会議(HEFCE)・英国研究会議(RCUK)等と協議の上、より効果的な助成システムを目指す。

(5)イノベーション創出―英国の経済成長は、公平な競争に基づいた市場で動く産業界と信頼のおける研究機関とに支えられている。とりわけ、イノベーションのもたらす影響は計り知れないため、更なるイノベーション創出を目指す。

(6)国際的な科学・イノベーションプロジェクトへの積極関与―科学・イノベーションの発展には国際協力が欠かせないため、Newton Fund(発展途上国々との科学助成共同計画)や欧州研究機関、G7、G7+5、G20、そしてEUなどの各組織と今後も積極的に関与していく。

※1 2012年の秋期財政報告書で£6億の予算配分が発表されたテクノロジー8分野を指す。具体的には、ビッグ・データなど省エネコンピューティング、宇宙衛星事業、ロボティックス、合成生物学、再生医療、農業科学、先端材料とナノテクノロジー、エネルギー貯蔵システムの8つ。

※2いかにして科学技術発展と産業化を密接に、効率的に結びつけるかについての戦略。産官連携の核産業研究所(Nuclear Industrial Council)への予算配分など。

【具体的な予算配分案 上記重点課題より重要計画抜粋】
※(1)~(6)の数字は上記重点課題対応項目を指す、金額は上限値

(1) ・(3)
・「8大テクノロジー」「産業戦略」等を併せ、科学への「大いなる挑戦」として、大規模主要研究プロジェクトに合計£29億を配分。うち、£10億はすでに、新「南極探査船計画(Polar Research Ship)」や「SKA(Square Kilometre Array: 集光面積1平方kmの電波望遠鏡)計画」などに投入されている。
また、うち£8億が2014年12月発表の秋期財政報告書(Autumn Statement)において数々の新しい計画に配分されることが決まった(マンチェスターにおける先端材料のための施設(Sir Henry Royce Institute)整備に£2億3,500万、IBMと共同で実施するデアズベリーにおける計算科学施設(Hartree Centre)でのビッグデータ事業に£1億1,300万、国際的な、自由電子レーザー研究プロジェクト「XFEL」へ£3,000万、広く社会を巻き込んだ科学発展のための「科学設備活性化助成(Inspiring Science Capital Fund)」へ£2,000万、次期欧州火星探索計画を含めた欧州宇宙機関(European Space Agency)の研究プロジェクトに£9,500万配分、などの事業を含む)。

・大学・研究機関における高レベルの研究を堅持し続けるため、個人レベルの主要な研究プロジェクト、機関レベルの主要な研究プロジェクト、世界レベル実験室設備の維持、国際研究プロジェクト参加の支援に£30億を配分する(うち50%以上は競争資金)。

(2)
・最大1万7,500人の数学・物理学教員養成のため£6,700万を配分する。
・大学院生のための£1万を上限とした学生ローンシステムを新たに整備する。

(4)
・産官学連携集合施設「Catapultセンター」の7センターのひとつである高品質製造センターに£6,100万、また、イノベーションの促進と次世代の科学技術製品の開発を目標として、Catapultセンターの一環である新たな国立製剤センター設立に£2,800万を配分する。

URL1: https://www.gov.uk/government/news/government-unveils-6-billion-package-for-uk-science-and-innovation
URL2: https://www.gov.uk/government/consultations/science-and-research-proposals-for-long-term-capital-investment
URL3: https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/388069/Terms_of_Reference_for_the_Nurse_Review.pdf

地域 西欧
イギリス
取組レベル 政府レベルでの取組
行政機関、組織の運営 予算・財政、政策・経営・行動計画・評価
大学・研究機関の基本的役割 研究