【ニュース・イギリス】学生に選択と機会をもたらす新大学構想

5月16日、ビジネス・イノベーション・技能省(BIS: Department of Business, Innovation and Skills)は白書-知識経済としての成功-(The White Paper(Success as a Knowledge Economy))を発表した。政府は、優れた機関が学生に独自の学位を与えられるようにしやすくするとともに、学生の大学選びに資するよう教育水準や就職の見通しなどに関するより多くの情報を学生に与える計画を推進する。

 

Johnson大学・科学大臣は、“大学は経済成長と社会流動性の原動力である。競争力のある質の高い教育をより多くの人に開かれたものにするため、優れた機関がより容易に独自の学位を出せるようにする。それによって、教育の質を上げ、経済成長に資するとともに、あらゆるバックグランドの学生が夢とチャンスを拡げられるようにする。

 

また、学生局(OfS: Office for Students)の新設によって、学生の選択肢拡大、教育の質と社会流動性の向上を高等教育の最重要課題に位置づける。さらに、研究会議等を改革して新設するUKリサーチ・イノベーション(UKRI:UK Research and Innovation)において、世界クラスの知識基盤のために強い声を上げていくともに、最もブレイクスルーが起きている学際研究の分野で世界を牽引していく。”と述べた。

 

 

白書で示された改革案の概要:

 

●教育水準を上げ、学生により多くの選択肢を与えるための新たな質の高い大学

 

新しい基準では、真に優れた機関がより容易に独自の学位を授与できる機関として認められるようになるとともに、手続きを合理化することで早期参入が可能となる。

 

これはより革新的で柔軟な機関が教育産業に参入することで、学生にどのような教育を受けたいか、より多くの選択肢を与えることを目的している。

 

新規参入できるのは厳しい基準を満たした機関だけであるが、承認後も機関は継続的に監督され、教育の質の低下が見られた場合には、OfSが、敏速かつ効果的に規制措置をとることになる。

 

●大学・専攻の編入に関する実態調査

 

学生の選択肢拡大の他の動きとして、政府は学生が大学生活への不満や環境の変化などがあった場合に、大学・専攻を容易に変更できるようにすべく、実態調査を開始した。

 

●教育の卓越性

 

白書には、教育評価制度(TEF: Teaching Excellence Framework)の実施が盛り込まれており、学生生活、卒業後の就職の見通し等、教育に関する様々な観点で大学を評価することになる。TEFは学生が大学を選ぶ際に教育に関する多くの情報を与えるとともに、学生一人ひとりに対して質の高い教育を行った大学は評価結果で報われることになる。

 

またTEFによる高い基準を満たした大学は、物価上昇率に併せて授業料の値上げができる。これは質の高い教育を行う大学に対するインセンティブになりうるとともに、財政面での安定性にもつながる。TEFは今後4年間にわたって導入され、最初の授業料の値上げは2017年の秋となる見込みである。

 

今回初めて助成金支給が学生の数だけではなく質と結びつくことになり、大学に学生の就職面での支援を促すことになる。

 

●透明性の改革

 

記録的な大学進学者数にもかかわらず、恵まれた環境にいる学生の進学率は、恵まれない環境の学生進学率の6倍である。政府はこの問題に取り組むため、全大学に対して、入学希望者、支援状況及び進学率について、民族、性別、社会経済的な背景別に示した詳細な情報を公表するよう求めることとしており、これにより大学はより広く、より早急に恵まれない環境の学生を支援することが求められる。

 

●研究とイノベーションにおける世界リーダーとしての地位を固める

 

英国は研究とイノベーションにおける世界のリーダーである。政府は議会の終了時まで研究予算を確保したいと考えており、本白書には、その地位を維持するため最高で年間£60億を研究・イノベーションに助成する計画が示されている。

 

Paul Nurse卿の報告(2015年11月)に基づき、英国が学際分野における研究・イノベーションで世界を先導していけるよう1つの戦略的な助成機関として、UKRIを新設する。UKRIに、7つの研究会議とイノベーションUK及びイングランド高等教育財政会議が有する研究と知識交換の機能を併せ持たせることで、共同研究の実施、気候変動や病気など世界的課題への対応を行いやすくする。なお、各研究会議とイノベーションUKの独自性は保持される。

 

GOV.UK:New universities to deliver choice and opportunity for students

 

 

【各機関、メディアの反応】

 

●英国研究会議(RCUK: Research Councils UK)

 

RCUK議長のPhilip Nelson教授は、“政府が発表した方針はRCUKの改革の方向性をはっきりと示しており大変喜ばしい。RCUKの役員、スタッフ全員が一丸となって政府と協力しながら、計画にあるような効果的な改革を進めていく。”と述べた。

 

Research Councils UK:Research Councils UK statement on publication of the ‘Success as a Knowledge Economy’ White Paper

 

●英国大学協会(UUK: Universities UK)

 

理事長でケント大学の学長であるDame Julia Goodfellow氏は“我々は政府の目的である、学生の利益を守り、公平性を増し、大学教育の価値を示していくことを支持する。

 

既存の大学も確立してしまっているわけではなく、常に何を学生に提供するか、上質な教育をどう提供するかを探っている。同様に、新たに独自の学位を授与できるようになる高等教育機関も高水準の教育を提供していくことがもっとも大切である。”と述べた。

 

Universities UK:Response to government Higher Education White Paper

 

●ラッセルグループ(Russell Group)

 

Wendy Piatt会長は、高等教育白書について次のようにコメントした。“英国の世界クラスの高等教育システムを強化するという政府の方向性に賛同する。我々が実践している卓越した教育と研究は、学生が経験する中でもっとも大事なことである。政府の方針を支持するが、同グループは研究面で世界トップの座を維持するだけでなく、更に上の段階を目指しており、政府は大幅改革をするに当たっては、慎重に行わなくてはならない。

 

大学の規制については、大学自治と多様性、競争力を守るため、リスクに基づく規制とした点は評価できる。また、新しい教育評価制度は教育の価値を高めることになるが、余計な規制を加えることなく、公平で適切な評価でなければならない。政府が早急に複雑な評価制度を導入することの難しさを理解し、施行期間を設け、時間をかけて制度を確立することにした点はよかった。

 

デュアルサポートシステムに法的保護を与えることは大変歓迎できる。また、研究助成機関については、いきなり全面改革するのではなく、まず暫定的にUKRIを設立し、時間をかけて改革することでスムーズな移行ができると思われる。一方で、変革の規模を過小評価してはいけない。”

 

Russell Group:Higher education white paper

 

●ガーディアン紙

 

5月16日付け白書に関する同紙記事:

 

野党労働党は、政府が学位授与の権限をまったく教育実績のない私立の機関に簡単に与えられるようにすることは、英国大学の世界クラスの評判を危うくするものだと批判した。

 

また、大学の教育評価の結果と授業料を結びつける計画も物議を醸していたが、時期については恐れていたより時間をかけて導入する案となっている。2017~2019年のTEFで最低基準を満たした大学は、2019~2020年から、物価上昇率の50%相当の割合で授業料を上げることが認められ、評価が際立って高い大学は物価上昇率と同割合まで上げられることになる。

 

英国学生連合(NUS:National Union of Students)は、政府に授業料と教育の質をリンクさせる提案を取り下げるよう求めた。NUS副総裁のSorana Vieru氏は“過去4年で授業料は3倍も跳ね上がっており、今また教育の質を保証するために授業料値上げの議論をすることはとても受け入れ難い。学生、教員、大学はみんな、教育の質の評価方法が非常に複雑な作業であることを強調してきた。白書で示された大雑把な方法で簡単にできるはずがなく、意図としない結果をもたらすのではないかと大変危惧している。”と述べた。

 

公共政策研究(IPPR: Institute for Public Policy Research:独立登録慈善団体のシンクタンク)の副理事であるJohnathan Clifton氏は“政府が高等教育界への新規参入を認めるのはいいことであるが、その手続きは慎重に行う必要がある。この政策が成功するかどうかは、真に革新的な高等教育機関をつくれるかどうかにかかっており、民間企業が手っ取り早く儲けるのを手伝うことになってはならない。”と述べている。

 

The Guardian:Labour condemns plan to give private providers degree-awarding powers

地域 西欧
イギリス
取組レベル 政府レベルでの取組
行政機関、組織の運営 政策・経営・行動計画・評価
大学・研究機関の基本的役割 教育、研究、質の保証