【ニュース・イギリス】英国のホライズン・ヨーロッパの財政的な再交渉は参加を遅らせる危険

 
2023年2月16日、Science Businessは北アイルランドの議定書の合意の前兆がある中、英国のホライズン・ヨーロッパへの参加が間近である可能性がでており、ホライズン・ヨーロッパへの参加を2年間締め出されていることから、英国は財政的な条件交渉の即刻開始を望んでいることを伝えた。英国政府は、ホライズン・ヨーロッパに対する財政面に関して再交渉を望んでいるが、欧州委員会との更なる争いは、EUと英国政府間に今でも前向きな進展がある状態であるにもかかわらず、参加の遅延もしくは決裂する危険性がある。

 
2021年の秋以降、欧州委員会は、英国政府がEU離脱協定の重要な部分である北アイルランド議定書の破棄をすると脅していることで論争となったため、英国の955億ユーロの研究・イノベーションのプロジェクトへの参加を拒否してきている。現在、議定書をめぐる交渉が成立し、参加への道が開かれる希望が出て来ている。しかし、英国政府は、長期にわたり締め出されたという事実を受けて、ホライズン・ヨーロッパへの参加に関する財政的な条件の再交渉を希望していると見受けられる。「もし北アイルランド議定書が合意に達した場合、英国の参加が確実になる前に、過去2年間、英国のプログラム参加に資金提供を行ったことを反映し、英国のホライズン・ヨーロッパへの資金提供を再交渉しておく必要がある。」と英国大学協会(Universities UK: UUK)のグローバル研究・イノベーション政策部長である、Peter Mason氏が語った。

 
英国側は、交渉が長引くことや、のちに閣僚たちがホライズン・ヨーロッパを否定し、独自の代替案である「プランB」を立ち上げるなど、敵対的な論争を避けるためにも、参加に関連する最新の財政詳細の交渉を始めることを心配している。しかし、これまでのところ、欧州委員会は北アイルランド議定書の問題が解決するまでは関与を否定している。Mason氏は「これ以上の遅延を最小限にするためにも、双方ともできるだけ早くこの交渉を完了するべきである。」と述べた。

 
再交渉

 
参加に関して合意した当初のEU離脱協定のいくつかの分野は、現在、英国の大学や官庁内で議論されている。例えば、ホライズン・ヨーロッパへの参加に関する管理費は2021年では英国の出資総額の0.5%、2026年までに3%毎年上昇することを想定していた。しかし、英国にしてみれば、時間をリセットして、提携を開始した年から0.5%の管理費を支払うことが公平である。参加していないため、英国のホライズン・ヨーロッパとの関係性は激減し、英国は参加によって戻ってくる金額が少なくなるという事実を反映し、頭金の支払いを減らすということを主張してくるかもしれない。しかし、英国の支払額は、GDPに基づいて計算されており、戻ってくる金額ではないため、これに答えることは難しいことかもしれない。

 
また、英国の研究者たちは引き続きプログラムに応募していることを考慮すると、欧州委員会が英国の参加していない数年に対して、ホライズン・ヨーロッパの管理費を支払ってもらいたいかどうかは不明である。特に英国の研究者たちは、助成金をもらうためにEU圏に引越ししないといけないという状態で欧州研究会議(European Research Council: ERC)に応募し続けている。英国政府はERCの助成金を獲得したものには同等の助成金を与える計画を発表しており、欧州委員会としては、英国はERCの助成金の選考過程に便乗しているから、貢献するべきと主張するかもしれない。それに加え、英国の公式な立場で、コペルニクスの地球観測プログラムにも参加を狙っているが、途中からの参加となるため、すでに多額の助成金が出ているホライズン・ヨーロッパよりも弱いと考えられている。

 
すべて解決可能

 
英国側は英国とEUの問題を解決し、参加に向けた迅速な合意ができるという望みがある。「これは解決可能なことなのです。」と医療研究慈善団体であるWellcome Trustの政策研究室部長であるMartin Smith氏が述べた。「2年後に更新するホライズン・ヨーロッパの詳細がいくつかあるが、一度合意しているので、また合意できる。ホライズン・ヨーロッパに関して現在議論されていることは、広範的な政治問題が解決すれば、まもなく参加でき、全ての人々の利益にもなる。」と述べた。しかし、英国の財政的な貢献に関する再交渉は、欧州委員会と険悪な長期的論争となり、英国がホライズン・ヨーロッパへの代替案となるプランBを実行することを英国の大学や関係者が心配している。

 
先週、英国に新しく設置された科学・イノベーション・技術省(Department for Science, Innovation and Technology: DSIT)の大臣は、もし研究プログラムへの参加が許されないのであれば、英国は「単独」で行くという発言をし、英国の研究者を心配させることになった。

 
Telegraph紙に寄稿したDISTの大臣であるMichelle Donelan氏は「もし参加がなければ、英国、スイス、日本などの科学大国と協力し、国際的な科学共同研究を行い、世界に向けた我々の代替案及び単独で活動する準備はできている。」と述べた。University College London の研究政策の教授であるJames Wilsdon氏は、ホライズン・ヨーロッパへの参加が遅れたことで、狭い費用便宜分析上では「高額」となる可能性が高い事実があるので、あきらめが肝心である、と述べた。「しかし長期的で広範囲な視点で見た場合、EU全体の広い研究開発ネットワークに参加を続けるということなので、手付金と考えれば、十分価値のあるものだと思う。」と述べた。

 
問題は、英国の閣僚たちがどう見るかである。「追及して、割引を求めるのか、不参加のための口実とするのか、その可能性はある。しかし、ほとんどが脅し文句であり、他の分野と同じように、EUの反対に押されて次第になくなってしまう。」とWilsdon氏は述べた。英国の科学担当大臣でライフサイエンス局の担当大臣も兼務しているGeorge Freeman氏は、もし欧州委員会が現在の立場を変えないのであれば、秋までに参加の手を引くと脅したが、その脅し通りにならなかった。

 
英国政府関係者は昨年のLiz Truss首相の短期政権により英国政府が混乱し、ホライズン・ヨーロッパとプランB の協議が予想より時間がかかっていることを指摘した。Truss氏の辞任後、Rishi Sunak首相はEUに対して闘争的なやり方を減らし、北アイルランド議定書の合意は間近であり、週末には欧州委員長であるUrsula von der Leven氏と会談する予定だと報道されている。しかし、もしSunak首相が協定を結ぶことになったとしても、自身の保守党議員で熱心なEU離脱派からの意見を退けなければならない。ある大学関係筋はSunak首相が熱心なEU離脱派たちをなだめるために、ホライズン・ヨーロッパを破棄し、プランBを実行するのではないかと心配している。

 
もし、北アイルランド議定書をめぐる広い問題が解決しても、英国政府がホライズン・ヨーロッパ参加を拒否した場合、行き詰った状態でも政府に対して提携を呼び掛け続けた大学側からの怒りを買うことになるであろう。欧州委員会の広報担当者は、「一般的に考えて、これらのコメントに対して何か意見を言う立場ではない。」と答えた。

 


Science Business:UK requests for Horizon Europe fee renegotiation risk further delaying association


地域 西欧、EU
イギリス
取組レベル 政府レベルでの取組
研究支援 研究助成・ファンディング