【ニュース・イギリス】状況は悪化の一途:EU離脱でトップの科学者が英国離れの恐れ

 
2022年10月8日、英国を拠点とするノーベル賞受賞者は、重要なホライズン・ヨーロッパへの参加の可能性が急速に薄らいでいることを語った。Guardian 紙の日曜版であるObserver紙は、英国を拠点としているノーベル賞受賞者の厳しい見解として、英国の科学の未来がこれほど悲観的になったことがない、と語ったことを伝えた。また、トップの学術者たちは政府のホライズンヨーロッパ参加への交渉を望むことを諦め、英国から出る準備をしていると警告している。

 
今週、Liz Truss首相はようやく3ヶ月間の空席状態であった科学担当大臣にNusrat Ghani氏を任命した。しかし、上級科学者や大学の学長の間では、政府はすでにホライズン・ヨーロッパへの参加に消極的であることを警告している。

 
英国の科学者たちは、EUの資金を獲得することに確固たる実績があるが、参加することがなければ、英国の研究の将来に多大な打撃を及ぼす可能性があることを警告している。

 
前EU離脱大臣であったDavid Frost 氏は、2020年に貿易協定の交渉の一環としてホライズン・ヨーロッパ参加に関して粘り強く交渉したが、北アイルランドの議定書の実施ができず、その承認は頓挫した。

 
現在、多くの学者たちは、ほとんど解決の見込みがなくなったと言っており、University of Manchester に在籍し、2010年にグラフィンの研究でノーベル賞を受賞したAndre Geim卿がこの点を強調している。

 
英国の科学界が直面している危機の例として、Andre卿は、ウクライナ/ロシア人のポスドクの若手研究者が現在英国に移住することは、とても危険であるという理由で彼の研究室のポジションを断った。

 
このような危惧は、University of Oxfordのヨーロッパ考古学のChris Gosden 教授からも強調された。彼は欧州研究会議(European Research Council: ERC)から権威のある1,000万ユーロの共同研究資金を獲得する最終段階まで残っているが、この話がなくなる可能性があると考えている。

 
「この研究を進めるためには何年もの計画が必要であるが、それを実現するためであればEUの何処にでも移住するつもりである。」と語った。彼はフランスやドイツの提携者と協力するだけでなく、中国最初の国家形成に関する研究のため、中国の兵馬俑博物館との関係を何年もかけて築いてきている。

 
Andre卿は、多くの英国の研究者たちが海外からの仕事のオファーに抵抗しているという。なぜなら、政府はかなり多くの重要な提携を育み、高い投資効果を可能とするプログラムから締め出されることになるとは信じていないからである。しかし、多くの研究者が落胆しており、「ホライズン・ヨーロッパへの参加の希望はあまりない」と感じている。

 
この点は、視覚の進化の研究においてERCの助成金を受けているUniversity of Exeter の神経科学のGasper Jekely教授も同様の意見である。

 
Jekely教授は「解決に至らないのであれば、移住を考えている。もしドイツやスイスで良い機会があるのであれば、移住の可能は高くなる。」と語った。

 
また、英国からの「科学者たちの著しい移動」だけでなく、ホライズン・ヨーロッパから除外されれば、英国は海外の優秀な研究者にとって魅力的な国ではなくなってしまう。「的確な専門知識を持ち、正しいサンプルを所持する同僚とは、どこの国にいるということを問わず、一緒に研究する。科学が孤立してしまえば、ますます科学が貧弱になっていく。」

 
University of Oxford の高等教育学のSimon Marginson 教授は、起こるであろう影響に関して更に強く述べた。「大惨事となる。」多くの優秀な研究者が去ってしまうことで将来のプロジェクト、研究、提携、ネットワークが起こらなくなるであろう。

 
昨年、政府は69億ポンドをホライズン・ヨーロッパもしくは英国拠点の研究者のための「プランB」として確保している。しかし、Cardiff University の学長であるColin Ruordan教授は「真の危機とは約束された資金が支出削減のために使いつくされることである。」と警告している。

 
英国のトップの物理学者でUniversity of Cambridge の研究部長であるRichard Friend卿は「EU離脱後から続いている摩擦」とは、英国がすでにヨーロッパ全体からの優秀な学生、ポスドク研究者の「選択国」という立場を、すでに失いつつある状態であることを付け加えた。

 
「若手の研究者を失うことは大きな問題である。10年から20年後、周りに同じような優秀な人材がないことに気づくことになるが、それでは遅すぎる。」と述べた。

 
ビジネス・エネルギー・産業戦略省の広報担当者は「英国政府はEUのプログラムに参加することを望んでいる。しかし、EUの返事をこれ以上待つことはできない。だから我々は世界の科学超大国になるための大胆で意欲的な代替案を推進している。」と述べた。


Guardian 紙:‘Things will only get worse’: fears top scientists may shun UK over Brexit


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