【ニュース・イギリス】英国の科学・イノベーションの下落を回復する方法

 
2022年8月9日、Research Professional News は、シンクタンクである Onward の上級研究者である Maria Priestley 氏が、次期首相は英国の研究開発投資を再び活性化させるという難しい課題に直面することを述べたことを伝えた。保守党の党首選討論が過熱しているが、候補者たちは主に税制と公共支出を中心とした政策で票の争いをしている。しかし、生活費の危機、生活水準の低下など、これらの政策が対象とする問題はより深い問題であるとみられている。

 
生産性の伸び悩みは、ここ10年にわたって英国の経済を荒廃させている。生産性と研究開発の強化の関連性について、保守党党首候補者のどちらも科学技術政策がどのように英国の苦境にある経済を支えるのかに関して述べていないことは、大変驚くことである。最近の報告書 Rocket Science (How can the UK become a science superpower) でその点を調べたところ、英国は他の経済圏の国と比較してもいくつかの素晴らしい研究所を持ち、最も多い科学系の卒業生数、企業の研究開発に対する寛大な税制優遇処置もあることが分かった。それにも関わらず、過去30年間で、英国の研究開発費の投資額は OECD の平均を維持した場合でも2,120億ポンド少ないのである。

 
では何が間違っていたのであろうか?

 
英国の研究開発費の不足は、民間投資の欠如が大きな原因となっている。英国の研究開発費で企業投資はたったの55%で、米国は64%、中国と日本は79%、韓国は77%であった。

 
政府の民間投資を奨励する現在の戦略は、主に研究開発に対する減税に依存している。研究開発減税は財務省に2019/20年度で74億ポンドと多大なコストをかけているが、管理者にとっては容易であった。このような包括的な支援は、どのような種類の研究開発の支援をするか政府関係者が決める必要はなく、つまり、このやり方は「勝者を選ぶ」と非難されるのを免れた。

 
しかし、この曖昧な態度は現在の経済圧力下では長く続くことはないであろう。

 
ウクライナでの戦争は、国家安全保障のために様々なやり方での研究開発投資の拡大の必要性に焦点を当てた。一方、政府自身の「レベリングアップ課題」は、国内の特定の地域で生産性を高める計画である。このような課題に取り組むためには、明確で測定が可能な研究開発結果に向かう努力が必要である。

 
特定の分野で民間資本に関心を持たせる方法として、調達、企業とのマッチングファンドを条件とする助成金、もしくは戦略的優先分野における国立研究所の設立が考えられる。

 
しかし資本財産の純粋な取引という観点では、英国全体の研究開発能力を築き上げている企業が、貢献できる他の貴重なやり方を見逃してしまう。これには、労働者の訓練、中小企業や大学のスピンアウト企業のイノベーションの改善、自社のサプライヤーに対する経営向上スキルの支援などが挙げられる。

 
このような貢献は、起業家のエコシステム、優秀人材の確保、より広い経済のための優れた研究開発のクラスターの構築など、大変重要である。

 
しかし、このような恩恵は、長期的で生産的な研究開発のエコシステムを実現・維持するため、民間企業にインセンティブを与えるための協調的な努力からでなく、公共資金によるプロジェクトや、研究所の副産物から生じることが多いと予想される。協調的な努力に関する部分は、資本資産の調達だけでなく、研究開発を支援するサービスに関しても考え方を変える必要がある。

 
以前の政府では、民間のサービス調達の試みは 公民パートナーシップ(PPPs) として実施され、英国では 公的財政イニシアティブ(PFIs) が特に人気であった。これは、社会福祉、建築、公共交通、廃棄物処理などの持続的な業務を公共部門が買い取る方法として、1990年代に始まった。しかし、複数のプロジェクトの失敗や、受益者の共生というより寄生的な慣行が報告され、PFI は2018年に廃止された。

 
PPPs は引き続き問題となっているが、英国の現在の研究開発の状況は、起業家の専門知識、資源、力の上に構築された頑丈で協調性のあるパートナーシップが必要である。これは公共部門、民間部門がそれぞれ単独な状態では達成できない。

 
次期首相は、英国の研究開発投資を復活させるという困難な課題がある。慎重に委任し、過去の過ちから学ぶことで、適切な実績指標の管理下にある PPP は、企業が最も優れた分野で活躍し、英国経済の再建のための投資機会を与えるであろう。


Research Professional News:How to revive UK’s science and innovation slump


地域 西欧
イギリス
取組レベル 政府レベルでの取組
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