【ニュース・イギリス】貴族院議員:次期首相は研究開発を焦点とし、実施に移行しなくてはならない

 
2022年8月4日、Research Professional News は英国貴族院の次期首相に関する報告書の内容を伝えた。

 
英国貴族院議員は、「不明瞭な目標」と「コミュニケーション不足」は政府の研究開発の展望に危機をもたらすと警告し、次期首相に対し、明確な科学技術の実現計画を出すように求めた。同日に発表された貴族院科学技術委員会の報告書は、政府がしばしば繰り返している「科学技術超大国」の願望は、「実施に対するレーザーのようなものすごい集中力」がなければ、ただの「空虚なスローガン」になる、と述べており、厳しい文面となっている。

 
英国の研究開発は「度重なる政策変更で弱体化し、長期的であるはずである戦略が数年で見捨てられている。」と報告書にある。「英国の科学技術力は依然として強く、世界から尊敬されているが、政府からの一貫性のない不明瞭な科学政策により、英国の潜在能力を十分に発揮できない。」と委員会の議長である Julia King 氏が述べた。「新しい内閣は科学技術に対する展望を維持し、実現のための明確な計画を開発するべきである」と述べている。

 
この報告書は、英国の科学技術戦略を実現するための政府の計画について、5か月間、委員会が行った調査に基づくもので、保守党の党首選と時を同じくして発表された。Liz Truss 外務大臣と Rishi Sunak 前財務大臣は現在 Boris Johnson 首相の後任として勝ち残っている。しかし、彼らの演説には研究開発や高等教育に関してほとんど述べておらず、税制、公共支出が中心となっている。

 
明確な成果に欠く

 
報告書では、2027年までに研究開発に充てるGDPの割合を2.4%に引き上げるという重要な目標、2030年までに英国を「科学技術の大国」にするなど、多くの積極的な研究開発の発展が挙げられている。しかし、「歓迎する手段と賞賛すべき美辞麗句」にもかかわらず、政府はこの野望を達成する筋道が立っておらず、「この資金提供で達成したい明確で測定可能な成果がない」という懸念を指摘している。具体的には、政府は「この国において特に得意とする科学技術分野を特定しておらず、優先順位でさえも明確ではない」と貴族院議員は言う。

 
同様に、ライフサイエンス、人工知能の分野別の戦略を、どのように全体的な計画に導入するのかなどが、「全く分かっていない」と付け加えた。「科学政策は完璧から程遠い。様々な分野で計画が成就することがほとんどなく、それらを結びつけることがほとんどない戦略が多数見つかった。」「責任が明確でなく、明らかに重複している数多くの団体や組織があるにもかかわらず、さらに追加されている。それぞれの政策は誰が責任を持っているのか、また重要なのは誰がそれを実現するのか、それらが明確ではないことが多い。」とKing 氏は語った。

 
委員会は、政府の新しい閣僚レベルの 国家科学技術会議(NSTC) と 科学技術戦略局(OSTS)が「特に政府全体で科学技術を調整するという目的に成功すれば、報告書に示された問題のいくつかに対処する機会」を提供することになる。しかし、NSTC は2021年7月に発足して以来、3回しか会議をしておらず、またOSTSは「具体的に何をするのか実質的な文書を発表していない」ことを挙げて、どのように「その潜在能力を発揮」するのか未だに不明である。

 
より明確な権限がないと、新しい組織はその責任を曖昧にして「すでに込み合っている」科学技術の現場に、官僚主義的なやり方を増大させる危険性があると、貴族院の報告書は警告している。「英国は科学超大国というよりも、官僚主義大国になる恐れがある」と同委員会のJohn Krebs氏がいう。そして、「官僚主義を減らし、もっと行動する必要がある」と付け加えた。「将来の首相は、NSTCとの定例会議の議長となることを「優先」するべきだ」と強く促している。また、議員たちは科学大臣の早急な任命を求めている。そして、その地位は「内閣レベルの役職であるべき」としている。このポストは、7月7日に George Freeman 氏が辞任してから不在となっており、次官級(担当大臣)の役職となっている。

 
国際政策

 
その他報告書で挙げられている懸念材料は、政府の一貫性のない国際科学政策も含まれている。

 
議員たちは、昨年の 政府開発援助(ODA)の削減で英国の名声は落ちてしまい、研究開発プロジェクトにも影響が出た、と述べた。

 
また、英国のEUの研究開発プログラムであるホライズン・ヨーロッパに参加しないことは、「英国の名声をさらに落とし、科学基盤の質を危機にさらす」と述べている。

 
「英国が孤立すると科学超大国にはなることはできず、関係を修復するべきである」とKing氏は述べた。

 
この報告書では、よい面、悪い面、疑問の3つの項目で主要なものを要約している。

 
良い面

  • 研究開発の公共投資増を含む2.4%の目標
  • 内閣小委員会や事務局(NSTC, OSTS)の設立
  • 主席科学顧問の効果的なネットワーク
  • 進捗状況を測定するための指標を使ったより戦略的な方法の提案
  • 公務員の科学的専門性を高める傾向
  • 2.4%の目標を達成するために、いくつかの分野の政策の変更すべき部分が特定された。

悪い面:

  • ホライズンから撤退する可能性があり、その結果として、提携や能力の低下
  • ODAの予算削減
  • 頻繁な政策変更
  • 部門別の戦略の乱立
  • 明確な報告系統と説明責任のない官僚主義がさらに進む
  • 2.4%の目標に対する産業界との関与の欠如
  • 内閣小委員会や事務局からのアウトプットの欠如
  • 2.4%の目標は同等な国と比べて遅れている。

疑問:

  • 規制、調達、税額控除に関する具体的な改革がない。
  • UKリサーチ・イノベーションと各省の研究部門との関係が明確でない。
  • 研究開発に対する長期的な取組が明確でない。
  • 研究開発の目標が経済計画全体に対してどのように対応するのか不明確
  • 研究開発投資のリスク回避を政府がどのように克服するのか不明確

政府の広報担当者は、Research Professional News に対してコメントを出した。「我々は英国が科学超大国としての地位を固めることに全力で取り組んでおり、記録的な投資額が証明している。」

 
「英国は依然としてEUプログラムに参加し、ヨーロッパのパートナーたちとの提携の継続を望んでいる。EUの遅れにより、英国が Horizon、Euratom、Copernicus に参加できなくなった場合、我々は国際的な科学、研究、イノベーションの提携に関する包括的な代替プログラムの導入を約束している」と述べた。


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