【ニュース・イギリス】英国の大学は、学費の危機により英国学生削減の可能性があると警告

 
2022年6月29日、Guardian 紙は、将来いくつかの大学は学費の上限額がない留学生を中心に募集するところが出てくる恐れを伝えた。
 

英国内の大学で近い将来、英国学生の入学数を削減し、クラスの規模を拡大し、職員の解雇を行う可能性を大学学長らが警告した。学長たちは、学費の価値が実質的に急落している中、政府に対してこの危機の回避のための介入を求めている。

 
優秀大学のグループであるラッセル・グループは、学費はインフレの上昇に追いついておらず、過去の約10年間停滞しており、現在英国学生1人当たりの教育費は年間1,750ポンドの損失が出ている。平均して、2024年までに英国の全ての学部生は年間一人当たり4,000ポンドの損失になると予想している。専門家は、一部の大学は英国学生への教育から撤退し、学部生や大学院生の留学生だけの大学も出てくる可能性を述べた。

 
政府は2012年に学費の上限を9,000ポンドに引き上げ、2017年以降は9,250ポンドに固定されている。閣僚たちは、次回の総選挙を控えて、この政治的な問題に関して概ね議論を避けようとしていると推測され、すでに2024/25学事年度まで学費を凍結している。しかし、大学のトップたちは現在の資金調達制度は「役割を果たしていない」と述べており、政府は教育のための追加助成金もしくは高等教育への支払いに関しての見直しをするか、いずれにおいて適切な方法を検討する必要がある、と述べている。

 
大学長のグループである英国大学協会のトップである Steve West 教授は「何も変わらないのであれば、大学は規模の縮小を検討することになる。そうなるとより大きな講義と少ない職員となる。そんなところ誰も行きたくないだろうが、選択の余地はないかもしれない。」

 
University of the West England の学長でもある West 教授は、「教育は政治闘争に勝つための道具とされるにはあまりにも重要なものである。もちろん現在は学費の値上げをする時でもない、しかし、政府は大学の財政に関して議論を避けることはできない。」

 
多くの大学、特に優秀な大学ではすでに学費において政府の上限のない、留学生や大学院生の数を任意に増やしている。

 
ラッセル・グループのメンバーである Cardiff University の学長である Collin Riordan 教授は、もし、結果的に教育に関して損失が出た場合、「自国の学生数の削減をせざるを得なくなる。」と述べ、「科学、工学、技術など国として重要な科目は教育にコストがかかるため、英国人に対する定員を削減することになる。」と述べた。

 
「政府は国家的な義務として、少なくともこの国の学生に教えることができるようにするべきだと思う。」と答えた。

 
Riordan 教授は、政府はこのことを「危機」と認識しているとは思い難く、閣僚たちが、大学機関自らで解決するように指示することを恐れている。「政府は、自分たちで導入した資金制度に対して責任を負うべきで、それがちゃんと機能していない。」と述べた。

 
大学進学に関して助言を行うコンサルタント会社 dataHEn の共同設立者である Mark Corver 氏は「いくつかの大学は、英国の学部学生にフルタイムの学位を提供することを遅かれ早かれ、手を引くかもしれない。」と述べている。

 
Corver 氏は、学校を卒業する学生は、この夏、大学に入学することが既に難しくなっていることに気づくだろうと予測している。「エネルギー市場では、値段にサービス提供の費用を反映しなければ、最終的に供給者が閉鎖するだけだということが分かった。」と述べた。

 
「今年学校を卒業する人は、これまでより大変優秀な GCSE の成績を収めているので、通常なら高い成績の大学に行くことを期待している。しかし、その枠に入れるかどうかはわからない。」と述べた。

 
Corver 氏は、イングランド銀行の発表通りに今年後半に 消費者物価指数(CPI) が3ポイント上昇すると、RPI も現在の12%から15%上昇する可能性があり、今年9月には現在の9,250ポンドの学費は2012年の価値で6,350ポンドにしかならないということを意味する。これは、当時の政府によって導入された学費9,000ポンドの3分の1ほど価値が下がったことを意味する。

 
「英国には世界でも有数な大学があり公的な補助金を受けている。しかし、競争国の若者を教育し、スキル向上させることが財政的により良いこととなり、奇妙な状況となる。」

 
University of Northampton の学長である Nick Petford 教授は「これは特別なことを要求しているわけでなく、厳しい経済的な現実と実質的な削減である。」と述べた。「もしこれが NHS に起こったのなら、政治家は躍起になるでしょう。」と述べた。

 
Petford 教授は、大学の多くが無料学校給食を利用しているような、困難な環境の出身学生を多くの割合で受け入れていることに誇りを持っている。しかし、それを続けることはお金がかかるということである。「学生数が減り続ければ、持続不可能となる。」と述べた。

 
高等教育政策研究所(HEPI) の所長である Nick Hilman 氏は、資金不足による最大のリスクとは大学が倒産することではなく、機関が学生に期待する経験を与えることができなくなることであるという。「私は1990年に大学に入学したが、当時一人当たりの資金が減少し、その結果、教育は人間味のないものとなり、今の時代においては、多くの人がそのようなものを受け入れないであろう。」と述べた。

 
Hilman 氏は、現状では職員がより多くの学生を教え、より多くの支援をしなくてはならず、採点の作業を減らし、時間がかかりすぎるのでフィードバックをすることも避けることになる。投資がなければ大学の建物や施設も劣化し、「汚なくなる」と述べた。

 
Hilman 氏は、今月初めにとある大学のオープンデーに行ったとき、父兄たちが「施設のチェックをしている」ことに気づいたという。「これが、政府が昔に戻ることを許さない理由の一つである。父兄たちも高い期待を持っている。」と述べた。

 
教育省の広報担当者は「政府は、今後3年間に渡り7億5,000万ポンドの追加資金で世界でも有名な大学を支援する。実験を主体としている健康系の学部や STEM 系の学部に対して、その資金の割合を実質的に上げ、高コスト科目の学部に対して8億1,700万ポンドを追加している。」

 
「学生財政制度は、学生、大学そして納税者にとって公平であるべきで、卒業生の負債の負担を軽減するために学費を凍結したことは正しいことである。我々は、全ての大学で学生が求め、学生にふさわしい質の高い授業を行うことを期待している。」と回答した。


Guardian 紙: UK universities warn tuition fee crisis could mean home student cutbacks


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イギリス
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