【ニュース・イギリス】英国の140人以上の研究者がERC助成金の打ち切りを告げられるのか。

 
2022年6月9日、Research Professional News は英国拠点のホライズン・ヨーロッパの助成金獲得者が、時間切れのため打ち切りとなる可能性に失望していることを伝えた。

 
欧州研究会議(ERC) の助成金を獲得した、英国の140人以上が助成金の打ち切り可能性を告げられた。このニュースは、2か月間にわたり、彼らの研究プロジェクトを EU やその他の該当機関に移行するように要求した結果を受けてのものである。

 
6月8日の書簡では、ERC は英国を拠点とする143人の助成金獲得者に対して、新しい受け入れ機関からの確認書または、「そのような書簡がまだ用意されていない正当な理由」をまだ受け取っていないことを伝えた。

 
その結果、「助成金の準備を終了しなればならなくなった」と述べている。

 
ERC の広報担当者は、Research Professional News に対し「EU 加盟国もしくは参加国でないホスト機関と助成金の契約を締結することは法的に不可能であるため、助成金の準備を終了する。」と述べている。

 
しかし、ERC の広報担当者は、助成金の打ち切り時期について「ERC は関係者に対して決定するための時間をもう少し与える。」と述べている。

 
英国の EU 研究開発プログラムへの参加は、英国と EU の広範な政治闘争により遅れており、これにより、英国拠点の研究者は獲得した助成金を受け取る資格がないことを意味する。

 
深く失望

 
University of Cambridge の ERC Starting Grant の獲得者である Peter McMurray 氏は、「このような結果になったことを深く失望する。合意に至らなかったことに苛立ちを覚える」と述べている。

 
助成金の終了の通知を受けた McMurray 氏は「ERC がもっと柔軟であればよかったが、英国の EU 離脱合意の内容を一方的に変更しようとする現在の試みは、短絡的で研究者にとって害を与えることになるだろう。」と付け加えた。

 
英国政府は、影響を受ける助成金に対して UK リサーチ・イノベーション(UKRI)を通じて国内資金の提供を約束している。しかし、多くの人がそれをあまり権威のない選択肢と見なしている。

 
McMurray 氏は「英国の助成金獲得者が、助成金を受け取るために EU に居住するか、その立場を放棄するか、UKRI の二流の助成金を受けるかの決断を迫られたことは大変残念である。」と述べた。

 
「どちらもよい選択ではなく、最近家族と一緒に海外に引っ越ししたため、再び海外に引っ越すわけにもいかず、仕事を辞めることはしたくない。そのため英国に留まることを計画している。しかしなぜこの2つの選択肢しかないのか疑問を感じている」と述べた。

 
大変悲しく、最後の拒否

 
University of Oxford を拠点としERC Starting Grant を獲得した Christoph Treiber 氏も書簡を受け取った。この書簡は、4月8日に ERC が獲得者に助成金を受け取るためには移住する必要があることを警告した書簡に続くものである。

 
「ERC は最初の4月の手紙はただの警告であり、形式的上必要なもののように見せていたが、2つ目の書簡は大変悲しい最終的な拒絶であり大変残念である。」と述べた。

 
Treiber 氏は、より魅力的な機会がない限り、UKRI の保証を受け取る予定である。

 
ロンドンの大学を拠点とする別の ERC 助成金獲得者は「フランスでの他の選択肢を真剣に検討し、英国に残留することに考えが傾いている。」と答えた。

 
「時間切れになってしまうことは難しい決断を下すことに対して好都合であるから。UKRI の財政保証の申請をする予定である。」

 
しかし、不確実性が続く中、全ての助成金獲得者が英国に留まる決断をしたわけではない。

 
ERC は、Research Professional News に対して16人の英国を拠点とする助成金獲得者が、EU 加盟国もしくは関連国のホスト機関に移動する権利を使う可能性があることを伝えた。

 
そのうちの一人である University of Leicester の ERC starting Grant の獲得者である Giovanni Rosotto 氏は既にミラノにある新しいホスト機関から得た確約書を提出したという。

 
「欧州に戻る決心の大きな理由は、ERC 資金を失うということが要因ではない。」と話す。

 
「決心した理由は、ERC は金額が多いというだけでなく、知名度もあり、学生やポスドクを採用する際に世界中から優秀な人材が集まる。」からである。

 
「英国政府による代替計画はそのような保証がない。また ERC との関連が無くなると、英国の科学に対する資金は大幅に削減し、英国に対して長期的に賭けをするということは自分にとって賢い選択ではない。」と述べた。

 
英国科学の暗黒時代

 
一方、英国が EU の955億ユーロ相当の研究開発プログラムである、ホライズン・ヨーロッパへ参加する見通しは消えかかっており、北アイルランドの議定書の関する論争が大きな障害となっている。

 
元科学大臣である Chris Skidmore 氏は「最悪な状況を想定していなければならない。決定は出された。英国の科学や工学にとって暗黒時代となるであろう。」と述べた

 
現職の科学大臣である George Freeman 氏は、昨日、この問題に関する「最後の話し合い」としてブラッセルに訪れたが、EU の上級官僚から相手にもされなかったと報告している。

 
ERC の資金獲得者であるTreiber 氏は「英国はホライズン・ヨーロッパと全く関わりが無くなるだろう。そうなると英国の研究界にとって悲惨なことであり、これは離脱するに当たっての良い理由となるだろう。」

 
「政府が考える北アイルランドの議定書の再交渉によって得られるかもしれない利益が何であれ、世界最大の研究プログラムの参加に勝る利益はない。」と述べた。

 
UKRI は、ビジネス・エネルギー・産業省に対するこの問題に関する質問を延期した。

 
産業省の広報担当者は、「EU が英国のホライズン・ヨーロッパへの正式な参加を遅らせていることは、英国に拠点を置く研究者、企業、イノベーターに不確実性をもたらしていることを認識している。」

 
「そのため、政府は2022年12月までに助成金合意書に署名する予定で、ホライズン・ヨーロッパの資金を獲得した者で、EU との合意書に署名ができなかった者に対して資金の保証をしている。」

 
「この保証とは、資金獲得者が、実施期間中に英国のホスト機関でプログラム助成金全額を受け取れるということを意味する。」


Research Professional News: Over 140 researchers in UK told ERC grants will be terminated


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