【ニュース・イギリス】英国は、夏以降も膠着状態であればホライズン・ヨーロッパへの参加を取りやめる

 
2022年6月9日、Science Business は英国の科学大臣である George Freeman 氏が6月8日にブリュッセルを訪問し、EU の研究プログラムへの参加に関する18か月の膠着状態打開のため土壇場の解決を試みたことを伝えた。

 
George Freeman 科学担当大臣は、同日ブリュッセルの英国大使公邸で EU の科学関係者にホライズン・ヨーロッパへの参加を求め、期限が近づいていることを語った。

 
「ここに来たことは、参加を断念したことを伝えに来たわけではなく、その反対で英国はこれ以上待つつもりはない。秋になっても連絡がなかったら、英国は去る。」と語った。

 
Freeman 氏のブリュッセル訪問は、2020年に英国の EU 離脱の条件である貿易・協力協定の一部として合意された、英国のホライズン・ヨーロッパ協定を救出する最後の試みであった。しかし、現在は欧州委員会と結びつきのある北アイルランド議定書に関する政治闘争に巻き込まれている。

 
ホライズン・ヨーロッパが開始されて1年半、英国はそのプログラム参加の門戸が開くという希望は無くなりかけてきており、150億ポンドの予備計画が準備されている。

 
科学者たちは、すでに根強く続く政治的な膠着状態の影響を感じている。ホライズン・ヨーロッパへの参加交渉が失敗に終わった場合、プロジェクトから外されることを恐れ、ホライズン・ヨーロッパに申請する英国を拠点とする研究者たちはますます減ってきている。

 
6月8日は 欧州研究会議(ERC) の助成金を獲得した英国を拠点とする者について、英国を離れるか、名誉ある助成金をあきらめるかを決定する期限で、少なくとも1名の研究者が Twitter 上で断念をすることが分かっている。

 
ERC の広報担当者によると、これまでに、英国拠点の ERC 助成金対象者で英国に留まるため助成金をあきらめることを表明しているのは2人だけで、その他16人は助成金を維持するため EU 国内に移住することに「興味はある」と答えているという。

 
しかし、英国の助成金獲得者が英国を離れるかどうか決断するのは「もう少し時間がかかる」だろうと広報担当者は言うが、どれぐらいの期間になるか具体的な詳細は述べなかった。

 
「英国にいる研究者のためにも解決しなければならない。今夏にも解決策を出さなくてはいけない、もしそうでなければ代替案を出さないといけない。」と Freeman 氏は語った。

 
英国が対抗するプログラムは、ホライズン・ヨーロッパのように3つの柱があり、研究奨励基金の提供、公的資金と民間投資家の資金と見合う資金提供に焦点を当てた産業とイノベーションの支援、グローバル研究プロジェクトへの資金提供を行う予定である。

 
Freeman 氏は、欧州との共同研究が引き続きこのプログラムの中心であることを強調したが、ホライズン・ヨーロッパに参加している小国などが、ホライズン・ヨーロッパと英国の代替プロジェクト両方に参加するための負担ができず、参加できない可能性もある。「どのようになるにせよ、欧州とのつながりを維持したい。」と述べた。

 
欧州の研究者にとって、英国拠点の研究者と共同研究する代替の方法があるということは、何もないよりましではあるが、将来のプログラムの開放性を懸念している。

 
ヨーロッパ大学協会(EUA)で政策調整・展望担当の Thomas Jørgensen 氏は、英国が最近発表した「高い潜在力を持つ個人」ビザについて、欧州の大学からのごく少ない卒業生に限られていたことを思い出した。

 
「我々が英国から理解する必要があるのは、このビザがどれだけオープンになるかということである。国際協力に開かれている英国の研究プログラムは、非常に優れたものでしょう。」と Jørgensen 氏は述べた。

 
加盟国は断固たる態度

 
EU 加盟国のある科学担当者は、英国の加盟がうまくいかなければ、共に損をすることになる、と認めている。

 
しかし、匿名を条件に話してくれた者達は、「加盟国は北アイルランド議定書をめぐる解決と欧州委員会がホライズン・ヨーロッパの提携と結びつけることに全面的に賛成している。」という。

 
ホライズン・ヨーロッパへの参加は、貿易・協力協定の一部として合意されたかもしれないが、英国政府は北アイルランド議定書を一方的に覆すという脅しで、協定全体をだめにする危険性があると主張した。先月、英国政府はそのための法案を提出することを発表し、まもなく出る予定である。

 
「基礎がふらついているようなところに建物は建てられない。チェリーを上に乗せるにも安定したケーキが必要である。」と代表はいった。

 
また、仮にホライズン・ヨーロッパに参加できたとしても、英国がこのような状況下で参加し続けてくれるのかどうか疑問である。

 
「最後までやり続けてくれるのか?何かしらの理由で英国が北アイルランドの議定書を破棄し、もう一度やり直さないといけなくなるのか?それとも、プロジェクトを中止しないといけなくなるのか?」と彼らは述べた。

 
英国は科学を大きく担っているため、ホライズン・ヨーロッパに参加できても後で撤退すれば、大変な混乱を招くことになるであろう、と代表者は述べた。

 
一方、英国では、Johnson 首相に対する国会議員の信任投票で大きな反発が起き、首相の権限が弱体化している。Freeman 氏が参加の代わりに構想しているプラン B の実施にも影響が出る可能性がある。

 
元英国科学顧問で、現在 University of Manchester の Andy Westwood 教授は、「ホライズン・ヨーロッパの代替となるものを成立させるだけの余地があるかどうか疑問である。」

 
「プラン B は、ジョンソン首相が自身の政権が仕事をしていることを見せたい政治構想のリストの中でトップにはなっていない。」と述べた。

 
しかし、Johnson 政権が弱体し、北アイルランドの議定書を無効にする法案を通過ができず、EU との関係をさらに悪化させる可能性があると英国研究政策の関係者が匿名希望で述べた。一方、Johnson 首相は支持率を上げるため、EU に対して強く出ることを考えているかもしれないと付け加えた。

 
ブリュッセルでの演説で、Freeman 氏は、英国からの譲歩の可能性には触れず、代わりに膠着状態に対する欧州委員会の役割を強調した。多くの加盟国が、一日も早く英国がホライズン・ヨーロッパへの参加を望んでいることを述べた。

 
Freeman 氏は、EU の研究長官である Mariya Gabriel 氏との面会を5回要請したものの、その度に拒否されたことを主張したが、欧州委員会の関係者はそのような要請を受けたことがないと述べている。

 
最後の訴え

 
Freeman 氏は、欧州委員会が夏休みに入る前までの数週間の間で、英国が参加できるように全力を尽くすように聴衆に訴えた。

 
Jørgensen 氏は、研究者たちの考えを変えるには、研究界において新しい議論を展開し、新たに味方を見つけなくてはならないという。「これまで声を大にして言ってきた。大学の意見を聞きたい者は大学の意見も聞いた。」と言う。Jørgensen 氏は、欧州委員会の官僚を揺るがすために、産業界が味方になってくれる可能性があると指摘した。

 
同時に、英国では、大学や研究機関も科学と EU 離脱の政治を切り離すように EU の政治家に最後の訴えを行っている。

 
先週、英国大学協会(UUK)は、EU 離脱交渉担当者である欧州委員会の Maroš Šefčovič 氏に書簡を提出している。

 
この書簡は、英国に拠点を置く研究者がコンソーシアムから強制的に追い出される一方、ホライズン・ヨーロッパ加盟の決定を待つ17か月の間に、ホライズン・ヨーロッパに申請する組織が少なくなっていることを訴えた。

 
書簡では、英国が早くて6月にもホライズン・ヨーロッパの参加を断念する可能性があることを警告している。「英国政府の見解では、日々英国の参加に対してお金を払う価値が弱体化しており、英国は取決めが確認されるのを待っている。」と述べている。

 
UUK の事務局長である Vivienne Stern 氏は、英国のホライズン・ヨーロッパ参加を阻止する EU の行為は「政治的自傷行為」であるとしている。

 
「科学は政治的行為の切り札として使われるべきではない」と述べた。

 
今のところ行き詰まり状態である。Jørgensen 氏は、Freeman 氏がブリュッセルに来て英国のホライズン・ヨーロッパから撤退すると発表しなかったことを喜んでいる。「ちょっとした小休止なったと思う。今日こそが門戸を閉じるときだと思った人はいるでしょう。」と語った。

 
一方、ある加盟国は奇跡を待っている。欧州委員会の科学担当者の一人は「英国の参加のため加盟国が欧州委員会を説得する、最後の努力の可能性はないだろうが、奇跡が起こるかどうかわからない」と述べた。


Science Business:UK will pull bid to take part in Horizon Europe if stalemate persists after the summer

 
参考:EU horizon europe brexit George Freeman brussels liz truss


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