【ニュース・イギリス】 大学職員の3分の2が離職を検討中、新しい報告書で明らかに

 
2022年3月28日、大学組合(UCU) は大学職員の3分の2が年金削減や給与、労働条件の悪化に伴い、5年以内に離職を検討しているとしており、英国の大学からの職員の流出を警告した。
 

これは新しい UCU の報告書である「UK Higher Education – workforce in crisis 」で100大学以上の大学職員約7,000人を対象とした調査によるものから明らかになった。
 

18歳から29歳の職員の81%が、給与や労働条件の悪化により今後5年間で職場を去る可能性が高い、もしくは非常に高い。この結果を受けて、UCUは、大学の学長に対し、英国の高等教育の将来とその基盤となる目的を危険にさらしていると非難した。

 
また、UCU は研究者のほぼ4人に3人は給与や労働条件を理由に高等教育から離れると回答し、英国が研究の世界のリーダーとしての地位を守ることができるか警告している。大学院生に関しては5人中4人である。

 
報告書は大学の雇用者、教育省長官、議会教育特別委員会の議長宛に書簡とともに送付された。UCU は「10年間に渡る、年金、給与、労働条件の悪化」とし、職員の士気の低下が要因であることを指摘している。約7万人の学術職員は不安定な期限付き雇用である一方で、2009年以降、給与は25.5%減少している。2011年以降、大学老齢年金制度(USS)の変更で一般の職員は24万ポンド悪化しており、将来積み立てられる予定の退職所得保証からさらに35%減少することになる。

 
この調査を通じて、大学の士気に関して警告がなされている。過半数(57%)は高等教育でのキャリアに対して不満を持ち、一方で88%は高等教育機関での将来に関して楽観視していない。仕事量に関しても一貫している議題でもあり、結果的に精神的な健康問題があるという回答者が多かった。2,036人の回答者は職場での怒り、気分の沈みなど個人の経験を詳しく述べている。これは、昨年10月に Education Support によって発表された大学職員の半分が仕事からのプレッシャーによるうつ病の可能性があると報告している報告書に続くものである。

 
UCU は英国の高等教育の「頭脳流出」を警告しており、実際に何千人もの高学歴の職員が離職を考えている。回答者の中には高等教育機関にとどまるため海外移住の準備を進めているという報告もある。

 
UCU は、大学は今後数年間の職員の「流出」を食い止めるためにも、また新しい職員のためにも「ますます魅力的でなくなる」ことがないように労働力に投資する必要があると述べている。

 
調査で明らかになった項目:

  • 回答者の3分の2は年金カット、給与、労働条件が原因で今後5年間の間に高等教育機関から離職する可能性が高いまたは非常に高いと回答。
  • 回答者の10人中9人(88%)は英国の高等教育の将来に対して楽観視できない、あるいは全く楽観視できないと回答している。
  • 過半数(57%)は高等教育機関での残りのキャリア続けていくことに不満がある、もしくは非常に不満があると回答している。

給与や労働条件に関して明らかになった項目:

  • 18歳から29歳の回答者の10人中8人(81%)は今後5年間の間に離職する可能性が高い、または非常に高いと回答。
  • ほぼ10人中8人(78%)は雇用者が契約条件に関する問題に対して対処しないことが自身の仕事が思うようにできない原因としている。
  • 仕事量、給与、非正規雇用が高等教育への従事から遠ざける3大余要因としている。
  • 時間給雇用の回答者は正社員に比べて離職の可能性が非常に高く、2倍となっている(57%:29%)
  • 大学院生の5人に4人(81%)は今後この分野から離れる可能性がある、または非常にあると回答している。
  • 研究者の4人に3人(74%)は今後5年間の間に離職する可能性がある、または非常にあると回答している。

USS 年金の削減に関して明らかになった項目:

  • 回答者で60歳以上(71%)、18歳から29歳(67%)が年金削減を理由に離職する可能性が高い。
  • 非正規雇用の回答者は安定した正社員より退職する可能性が高い。(時給・期限付き雇用68%、正社員58%)

 

推奨事項:

 
短中期的には雇用者は職員の勧誘や維持のためにも、高等教育機関の資源を活用し、賃金の低下、年金削減、非正規雇用、賃金格差、仕事量などの問題に対処し、職員の採用や維持する必要がある。

 
この報告書では、政府の教育特別委員会が高等教育機関の職員の士気や心体の健全さについて調査を開始し、年金、給与、労働条件に関する雇用者の政策が職員や学生にどのように影響が出るのか、またそれらの政策が高等教育機関の実績にどのような損害を与えるのかについて検討することを求めている。

 
また、報告書では、イングランド、ウエールズ、北アイルランドの政府に対して、2016年の高等教育法令(スコットランド)を利用し、運営組織の職員や労働組合の代表を選出し、選挙による議長の選出を導入することで、大学の運営の強化をするように求めている。

 
最後に、英国の教育省は、教育・学生成果評価(TEF)研究評価制度(REF)の質評価が高等教育の職員の仕事量に与える影響も評価するべきであるとしている。

 


大学組合(UCU): Two-thirds of university staff considering leaving sector, new report reveals


地域 西欧
イギリス
取組レベル 大学等研究機関レベルでの取組
人材育成 教員の養成・確保、職員の養成・確保
統計、データ 統計・データ