2017年6月29日、公正機会局(OFFA:Office for Fair Access)が発表した報告書によると、大学やカレッジは恵まれない環境にいる若者に対して高等教育機会を広げている一方で、成人の大学生に対しては対応の遅れが見えることを発表した。
本報告書(Outcomes of access agreement monitoring for 2015-16)は2015~2016学事年度で設定されたアクセス協定(access agreements)に対する各機関の取組状況や参加機会拡大のための投資や支援についてOFFAが行った調査結果である。
同局の理事長であるLes Ebdon教授は報告書序文で「高等教育機関への期待値を段階的に高く掲げ、各機関はそれに応える努力を続けている。各機関が各自で設定した新たな目標に対し80%以上が進展しており、大変喜ばしいことだ。
アクセス協定関連の投資は予想を大幅に上回るものであり、高等教育機関への入学の準備から卒業後までの学生生活のバランスが取れてきている。とは言うものの、我々の分析では成人やパートタイムの学生に対する改善が微々たるもの、もしくは全くなされておらず、今後の課題となる。多くの恵まれない環境の学生グループ、特に勉学、仕事、家庭のバランスをうまくとらなくてはならない成人学生にとって柔軟な選択肢が欠如しており、超えられない障壁となっている。成人学生が適切な支援を受けて大学に入学した場合、多くの場合成績がよく、良い就職先を得られている。このような可能性のある人材が通常の学生より2倍近く志半ばで学業を去らざるをえないことは、非常にもったいないことだ。」と述べている。
また報告書では、各高等教育機関が同学事年度のアクセス協定に£7億2,520万の投資をしていることも発表している。内訳は以下のとおり。
■ | £2億7,770万を公正なアクセス活動のために投資: |
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■ | £4億4,750万を財政的な支援のために投資: |
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OFFA:OFFA publishes outcomes of access agreement monitoring for 2015-16
【各メディアの反応】
○BBC News
恵まれない家庭環境下にいるの学生の初年度の退学率の割合が過去5年間で最高値を示していると、OFFAの報告書が示している。データによると2014~2015学事年度では8.8%の学生が初年度で退学しており、前年の8.2%から増加している。対照的に同学事年度における富裕層の学生の退学率は5%以下であった。報告書は退学率において貧困層と富裕層の学生の差が広がってきていることを示している。貧困層の学生の高等教育参加の数が今までになく増加しているが、2年連続で卒業前に学校を去る学生の数が増え続けている。この事実は学生にとって非常に大きな意味がある。高等教育は良い就職先や社会的階層の流動性の扉を開くことを可能にしてくれるが、それは卒業した者だけにしか開かれていない。
報告書ではまた、黒人学生は白人やアジア人に比べて1.5倍も退学率が多いことを示している。学位を得たものでも成績結果は大きな違いがある。白人学生の「優秀」は76%であったが、黒人学生は52%にとどまっている。
OFFAはパートタイムの成人学生に対しての対応が十分でない現状も指摘した。成人学生の93%がパートタイム学生であるため、パートタイム学生の減少は成人学生の減少に負の影響を及ぼしている。パートタイムの入学者の数は7年連続で落ち続け2010~2011学事年度から58%も減少しており、緊急な対処が必要である。
さらに報告書では2015~2016学事年度に、恵まれない環境の学生を広く高等教育に参加させることに取り組んだ機関の進捗状況も評価した。各機関は貧困層の学生を支援するため以前より多くの金額を投資している。2015~2016学事年度に高等教育機関が高等教育への幅広い参加のために投資した金額は£8億8,350万であった。(2014~2015学事年度:£8億4,210万、2013~2014学事年度:£8億260万)
BBC News:Rise in poorer students dropping out of university
○ガーディアン紙(The Guardian)
OFFAの理事長であるLes Ebdon教授はオックスフォード大学とケンブリッジ大学はもっと貧困層の学生の高等教育参加に努力をするべきだと語った。この2大学は不利な立場にある志願者の潜在的な能力を見出すことに失敗している。入学者選抜の際の成績に頼り、志願者の背景データの系統的な活用ができていないことを批判した。
オックスフォード大学の広報担当者はEbdon教授の発言に対して「幅広く秩序だったデータにより、恵まれない環境にいる学生の可能性を見出してきている。支援プログラムとして年にサマースクールに£400万、財政的支援として年間£800万の投資を行なっている。」と反論し、「2016年は学部生の31.5%は恵まれない環境にある学生であった。2017年の入学者に至っては恵まれない環境にある学生の割合は、イギリスの大学全体の平均よりも高い割合となっている。」と述べた。
ケンブリッジ大学の広報担当者も「入学者の決定は学術的能力でのみ決定している。我々は高い学術レベルを保ちながらも入学者の多様化を目指している。恵まれない環境の学生の大学への入学の障壁は高校での成績の低さである。恵まれない環境にある学生の選抜に当たっては、総合的に将来の可能性のある者を選んでいる。」と異議を唱えた。
The Guardian:Oxford and Cambridge ‘need to improve access for disadvantaged students’