【ニュース・イギリス】メイ首相が学生への学費の支援を公約

2017年10月1日、メイ首相は来学事(2018~2019)年度の大学の授業料を今年(2017~2018)と同額の£9,250(約138万7,500円*)に据え置き、今後学生財政システムの再検討をと発表した。(BBCニュース配信)
また、卒業生が学生ローンの支払いを開始する年収基準額を、£21,000(約315万円*)から£25,000(約375万円*)に引き上げるとした。

 

高等教育機関の改革は、2年制の学位取得コースの導入など、金銭的な負担がかからない方法が模索されている。また、授業料のローンの利率を下げたり、人手が不足しているエンジニアリング関係の学科の学費の値下げなどのアイディアも検討、また卒業税に関しても示唆した。

 

BBC教育部記者Sean Coughlan氏コメント:
授業料の凍結は好感触をもって受け止められた。しかし選挙のたびに政策がいかに変わるものであるかをも示した。授業料の値上がりと学生ローンの焦げ付きへの対処は、いずれの党にとっても若い有権者を取り込むための重要な政策のひとつとなっている。
高等教育研究法制定により毎年学費値上げの方向を示したが、大学側はすで暗礁に乗り上げてしまっていると予想している。なぜなら多数の支持がない限り政府はそれをごり押しすることは現実的ではないからである。恐らくもっと重要なことは学生ローンの支払い開始の年収基準額を£21,000から£25,000に引き上げ、すでにこの秋から学生ローンの利率を6.1%に引き上げたがこれについて再検討することを約束したことである。

 

*£1を150円にて換算

 

BBC News:Theresa May pledges help for young on student fees and housing

 

【関連記事】

 

メイ首相の公約を受けて英財政研究所(IFS:Institute for Fiscal Studies)による「授業料据え置き及び学生ローンの支払い開始の年収基準額の引き上げに関する試算」

  • 年収基準額を2021年まで£25,000に引き上げ続けた場合、平均して一人当たり約£10,000の支払い減額が生じる。中所得者層が一番恩恵を受け、最大£15,700の支払い減額となる。これにより30年間の返済期限内に返済できない卒業生は83%に上ると試算される。(現在は77%が期限内に返済できていない)
  • 授業料を£9,250に据え置くことで短期的な影響はさほど無いが、長期的に据え置きとなると多大な影響が出てくることが見込まれる。授業料を値上げせず、据え置きにすることで、2017年秋から3年制の学位コースに通う学生の将来の負債額は£50,600から£49,800と減少することになるが、多くの学生はいずれにせよこれらの負債を完済することはできず、高収入の卒業生だけが返済額の減額の恩恵を受けるという状況を意味する。
  • これらの変更により、政府の高等教育分野への長期的な支出が増えることになり、毎年約£20億を支出する必要が出てくるだろう。
  • 他との相殺の無い単なる授業料値上げの凍結は、大学の財政を圧迫することになる。短期的には影響は小さいが長期的な影響は避けられない。このような対応をするのであれば、政府が新たに教育評価制度(TEF:Teaching Excellence Framework)を導入したことについて疑問符がつくし、大学の長期的な財政運営の見通しに不確定さをもたらすことにもなる。

Institute for Fiscal Studies:Higher Education finance reform:Raising the repayment threshold to £25,000 and freezing the fee cap at £9,250(2017年10月3日付)

 

【各機関の反応】

 

○英国大学協会(UUK:Universities UK)/理事長Janet Beer教授 [2017年10月4日付]
現行の高等教育システムは大学の経営維持を可能にし、社会が必要とする熟練した技能をもつ者を輩出し、様々なバックグラウンドを持つ学生が新たな環境への扉を開く機会を提供している。他方、学費が適切で正当な額であるかどうかをチェックすることもまた重要である。

 

政府が学生のお金に関わることについて注力していることは喜ばしい。学生ローンの支払い開始の年収基準額の引き上げ計画も歓迎する。同協会は政府が生活奨学金制度を再導入し、低~中所得者の学生ローンの利率の引き下げに取り組むことを期待する。また、社会人学生やパートタイム学生の数が減っていることに対し、何らかの対策を講じる必要があると考えている。世界クラスの教育機関を持つ英国での大学に対する助成金の継続が重要である。IFSが発表したように学費を凍結してもその代わりとなる助成金の支給がなければ、世界級の教育を期待する学生に応えることが不可能になるという危機が起こることになるであろう。

 

Universities UK:Response to Prime Minister’s planned review of English university funding

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