【ニュース・イギリス】クリエイティブアーツの学位は工学の学位よりも納税者への負担が30%多い

 
2019年3月6日、英国のシンクタンクである英財政研究所(Institution for Fiscal Studies:IFS)は、奨学金や未償還の学生ローン(学費にかかるものと生活費に係るものの両方を含む)を元に、学科や大学ごとに政府支出がどのように配分されているかを推計した研究結果を発表し、以下のような記事を掲載した。
 
政府の現在の学部教育への助成金制度では、(大学卒業後の)収入が低い学科に最も助成金が支出され、最も高い収入の学科へは支出額が少ない。これは納税者が学部生たちに対して90億ポンドを負担し、高所得の卒業生のみが奨学金の大半を返済し、低収入者は返済しないという、英国の貸与型奨学金制度の意図されていない結果である。
 
このことは、納税者が結果的に、科学・工学を専攻している学生よりも、比較的低収入となりがちな芸術・人文学を専攻している学生に対し、より多額の補助金を提供していることを意味する。例えば、平均してクリエイティブアーツ学の学位(1年に37,000人が専攻)は工学の学位より納税者負担がおよそ30%多い。20年前の助成金制度が未だに実施されていたのであれば、逆の状態であったであろう。
 
これらは、学習科目や学生の所属教育機関を横断しつつ、奨学金や未償還の学生ローンを考慮したうえで、政府支出の分布を「初めて」推計する新たな分析からのいくつかの結果である。
 
これらが、様々な学位に対する見返りの推計ではないことを理解することが重要である。つまり、一部の学部や教育機関は、将来低収入になる可能性がある学生がたまたま入学するということにより、たとえその学部や教育機関が卒業後の収入に好影響を与える場合でも、巨額の助成金を受け取っている。最終的な費用はその後30年にわたる実際の収入によるものとなるので、これらの推計については不可避の不確実性がある。しかし、これらの結果は過去の卒業生集団の実際の収入に関する正確な詳細を示す新しい行政データに基づいており、現時点で算出しうる最良の推計であるだろう。
 
主な判明点:

  • 学科によって助成金にかなりのばらつきがあった。多くの学科で、政府はローンの回収不能分は60%程度と予想していた。しかし、例えば経済学における回収不能分は4分の1のみであり、医学や歯学ではわずかに5分の1であった。クリエイティブアーツ学では組まれたローンの額のおよそ4分の3にもなる。この違いは、一次的には、ローンの額の大きさよりも、むしろローン返済額の違いよるものである。
  • 学部レベルの高等教育への政府支出の90%以上を学生ローンの棒引き分が占めており、政府の最も高い支出は概して、ローン回収不能分が最も高い学科の卒業生に向けられる。政府は、学費や生活費を政府から借りた経済学の学生一人当たり11,000ポンドを負担するが、一方クリエイティブアーツ学の学生では35,000ポンドを負担する。医学部は例外で、その卒業生がローンの大半を返済するとは言え、最も費用が高い学部であり、巨額の教育助成金(が大学へと支払われること)によって、ローンを借りた学生一人当たり45,000ポンドがかかっている。
  • 学生一人当たりの政府の費用は、(教育)機関の類型によっても異なる。大学が受け取る助成金は極めて似たような額だが、それぞれの機関における学生一人当たりの政府拠出額は大いに異なる。卒業後の収入が高いラッセルグループの機関で学生ローンを借りている学生は、政府に25,000ポンド以下の費用しか掛けないことになる。平均収入がずっと低くなる、いわゆる「1992年(イギリス高等教育法改正)以降の大学」や「そのほかの」大学については、(政府の)負担は20%以上も多くなる。
  • 2011年以降の改革により、(政府の)資金配分は高コストの課程から卒業生の収入が低い課程へと移行した。2011年から2017年までの改革の結果として、経済学や工学の学生に関する借用者一人当たりの(政府)支出は約8,000ポンド減少しそうであるが、一方でクリエイティブアーツ学の学生への支出は6,000ポンド以上増加する。同様に、より高コストの学科が多い傾向にあるラッセルグループにおける借用者に関する(政府の)支出は6,000ポンド減少したが、一方で「1992年以降の大学」及び「その他の大学」においては2,000ポンド以上の増加となった。
  • 結果的に、STEM(科学、技術、工学、数学)の課程への政府支出の割合は、1999年から2017年の間に行われた政策変化により、57%から47%に減少した。仮にまだ1999年の制度をとっていたのであれば、(政府)支出の30%しか教養・人文科学系の科目に行き渡らなかっただろう。今日の制度下では、その数字は37%であり、一つの統計群あたり、高等教育への政府の支出額90億ポンドのうちのおおよそ13%がクリエイティブアーツ学の課程に配分されている。

 
報告書では、これらの数字が政策選択において意味することについても検討している:

  • 学費の上限を9,250ポンドから6,000ポンドに下げることは、政府の支出先に対して、より柔軟性を与える。このことは、卒業生の収入が低い学科から生ずる節減分によって、借用者一人当たりおよそ7,000ポンドを自由にし、より直接的に重点分野を対象(として支出)とすることができる。しかし、どのような学費カットであっても、高収入の卒業生が一番恩恵を受けることになる。
  • 学費の上限を可変式にすることは、支出先を決める際の柔軟性をとり戻すためのもう一つの選択肢になる。教養・人文科学の学費を6,000ポンドに引き下げるということは、過去20年間でこれらの科目(教養・芸術人文学)が受け取ってきた資金配分の増加分のいくらかを元に戻すだろう。しかし、この政策は、それらの課程(教養・芸術人文学)への需要を増やすか、もしくは意図に反して大学内での相互助成システムを通じSTEM(科学、技術、工学、数学)学科への資金配分を減らしてしまうかもしれない。

 
これらの問題のいくつかを解決するかもしれないひとつの政策というのは、政府が負担を減らしたい分野において、大学が一定水準を上回る授業料を課すことに対して、大学に手数料を請求することである。教養・芸術人文学への“負の教育助成金“は、学生の直面する学費や返済額に影響することなく、政府がそれらの学科へより少ない資金を配分するということを意味する。(このことによる)節減分は、重点分野を対象とすることが可能となる。しかし大学への影響や、大学側の反応は予測不可能である。
 
1ポンド≒148.24円
 
【調査結果の詳細】
IFS:Where is the money going? Estimating government spending on different university degrees
 
IFS:Creative arts degrees cost taxpayers 30% more than engineering degrees

地域 西欧
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