【ニュース・アメリカ】2019会計年度に向けた大統領予算教書が発表される―与野党合意による追加支出案を受けてNSFの要求額は2017会計年度と同額に回復

1. 概略

  • 2018年2月12日に公表された、2019会計年度(FY2019)大統領予算教書における米国科学財団(National Science Foundation:NSF)の予算要求額は、FY2017同額の74.7億ドル。うち研究関係経費は同1.5億ドル増(2%増)の61.5億ドル。分野別等の内訳は示されておらず、後日公表することとされている。
  • 公表された大統領予算教書の冊子では、NSFの予算についてはFY2017比で22.0億ドル減(29.4%削減)の54.7億ドルという数字で示されたが、これは直前に行われた与野党合意に基づく追加分が反映される前の数字である。追加分を含めた正式なNSFの予算要求額は上記74.7億ドルである。内訳等は2月26日の週に公表される予定。
  • 大統領予算教書はあくまで大統領が議会に対して示す要求であり、実際の予算案は、予算教書に拘束されることなく議会が作成する。なお、FY2018予算は未だ成立しておらず、暫定予算を更新しながら予算運営が行われている。

2. FY2019大統領予算教書について

【大統領予算教書の発表】

  • 米国大統領府は2018年2月12日、2019会計年度(FY2019)の大統領予算教書(President Budget Request)を発表した。大統領予算教書は大統領が議会に送り、議会における予算審議において参考とすることを求めるものであり、これがそのまま予算法案の原案となるわけではない。米国の予算は法律であり、立法府である連邦議会がその原案を作成し、両院で可決されたのち、大統領が署名することによって成立する。米国の会計年度は10月に始まるため、FY2019は、2018年10月から2019年9月までの期間である。
  • 今回発表された予算要求は全体の概略であり、各省庁・機関の予算の総枠に関する要求のみを示したものであって、各省庁・機関の部局別、分野別などの詳細は示されておらず、詳細は後日公表されることとなっている。

【直前の「積み直し」】

  • 今回議会に提出された大統領予算教書には、同時に大統領府行政管理予算局(Office of Management and Budget:OMB)長官名での補訂(addendum)がなされている。これは、当初の大統領予算要求の案は、2011年に定められた予算管理法(Budget Control Act)に基づく債務上限の範囲に収まるように積み上げられていたが、予算教書提出の直前(2月9日)に、与野党合意に基づく超党派の予算措置法(Bipartisan Budget Act of 2018)が成立し、2018会計年度及び2019会計年度の連邦債務上限を引き上げることが決まったことに伴い、省庁ごとに予算要求額を追加したもの。この追加分は大統領予算教書の印刷に反映することが間に合わず、OMB長官名の別刷りの補訂という形で示されている。
  • 与野党合意に基づく追加が行われる前の大統領要求案では、FY2018大統領予算案と同様に、防衛予算の確保に重点を置き、非防衛予算については大幅な削減に踏み込んでいた。2017年末に成立した税制改革法(Tax cut and Jobs Act)により、トランプ大統領の選挙公約通り、法人税や所得税等の大幅な減税が行われたことによる税収減少を踏まえて、非防衛予算のうち裁量的経費(法令等により支出が義務付けられているものではない経費)の一層の削減を行おうとした。NSF等の研究予算は、この非防衛予算・裁量的経費に該当する。非防衛予算の裁量的経費に関する要求額の追加に伴い、NSFに関しては以下に示すようにFY2017予算額と同水準の要求額となった。

 

3. NSFのFY2019予算要求について

【NSFの予算要求額】

  • FY2019大統領予算教書によるNSFの予算要求額は、FY2017同額の74.7億ドルである。FY2018予算は未だ議会において審議中で成立していないため、FY2017との比較となっている。
  • FY2019大統領要求のうち研究関係経費は同1.5億ドル増(2%増)の6.15億ドルとされている。主要研究施設・設備建設関係経費はFY2017比56%減の0.95億ドルとなっているが、この主要な要因は研究観測船(Regional Class Research Vessels)の建造に係る経費の削減(3隻から2隻への減)とされている。
  • 局別・分野別等の内訳は示されておらず、後日公表することとされている。2月21日のNational Science Board(NSB)におけるNSFのアントニー・デイジオバンニ(Antony Digiovanni)予算課長(暫定)からの説明では、2月26日の週内に電子媒体による公表を予定しているとのこと。

【与野党合意を受けた追加要求】

  • 2月12日に公表された大統領予算教書では、NSFの予算はFY2017比で22.0億ドル減(29.5%削減)の54.7億ドルとなっていた。仮にこの通りの予算となれば、NSFにとって過去に例のない削減幅であったが、これは直前に行われた与野党合意を踏まえた追加要求が反映されていないものである。与野党合意に基づくOMB長官名の補訂によってNSFに22.0億ドルを追加することとされ、正式なNSFの予算要求額は上記74.7億ドルとなっている。
  • 補訂によりNSFに追加された(戻された)22億ドルは、基礎研究の振興及び科学技術教育(Science, Technology, Engineering, and Mathematics(STEM)education)の推進、南極観測施設を含む研究施設のアップグレート、新たな2つの分野横断研究等への資金提供を行うものであると説明されている。
  • なお、この補訂により全ての省庁・機関について一律に追加要求が行われたわけではない。国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)、エネルギー省(Department Of Energy:DOE)科学局(Office of Science)等の機関は、NSFと同様に、当初の要求案では大幅な削減(NIHは-29%、DOE科学局は-28%)が予定されていたが、追加要求によりFY2017と同水準の要求額となった。他方、再生エネルギー研究等を行うDOEのエネルギー高等研究計画局(Advanced Research Projects Agency-Energy:ARPA-E)の廃止や海洋大気庁(National Oceanic and Atmospheric Administration:NOAA)の行うSea Grant Programなどの事業の廃止等については追加要求はなされていない。また、航空宇宙局(National Aeronautics and Space Administration:NASA)については当初要求案ですでにFY2017より1.7%の増となっていたが、さらに追加要求されて2.3%の増となっている。

【NSFの“10 Big Ideas”との関係】

  • NSFが公表した予算要求のサマリーでは、NSFが長期的に目指す方向を示す“10 Big Ideas”に沿い、10 Big Ideasにある6研究分野のうちの2つ(“The future of Work at the Human-Technology Frontier” 及び “Harnessing the Data Revolution”)を中心とした分野横断的な研究の加速と、同じく10 Big Ideasに含まれている研究インフラ整備(南極研究施設の建造開始)に向けることとしている。10 Big Ideasは大きな方向性を示すものであり、それぞれ特定の事業と1対1で紐づいているものではなく、複数の事業が複数のIdeasにつながっている。例えば、電波望遠鏡の研究や2017ノーベル物理学賞につながった重力波観測研究は、“Windows of Universe”だけでなく、“Harnessing the Data Revolution” 、 “Mid-scale Research Infrastructure”に関わる面を持っている。

【今後の見通し】

  • FY2019までの債務上限の引き上げ自体は成立したものの、これにより2017年末に成立した大幅減税と相まって連邦政府の負債が大幅に拡大することは明らかであり、与党共和党内には財政緊縮を強く求める声もある。
  • 今回の与野党合意に基づきFY2018とFY2019に関しては債務上限が引き上げられた結果、NSFは29.4%減という大幅な予算減額案を回避したものの、与野党合意ではFY2020以降の債務上限等についてまで拡大することが決まったものではない。このため、今後新たな債務上限の引き上げ等が行われなければ、FY2020大統領予算教書では、2011年予算管理法に基づく債務上限の範囲内の要求規模となり、NSFの研究関係予算を含む非防衛・裁量的経費が再び大幅に緊縮される可能性が残っている。

【参考】追加要求の背景-FY2018予算案審議と2度の政府閉鎖

  • 米国の会計年度は10月から始まる。しかし本会計年度(FY2018)の予算は新年度に入っても成立しておらず、連邦議会はここまで4回にわたり期限付きの暫定予算(Continuing Resolution)を組んできた。暫定予算が切れると政府は支出負担行為ができなくなり、政府閉鎖(Shut down)を行わなければならなくなる。
  • 今般の与野党合意は、上院の共和党・民主党指導部が主導して、2月8日に4回目の暫定予算の期限を迎えるにあたり、政府閉鎖を避けるための「取引」として行われたもの。3回目の暫定予算の期限切れに当たって、不法移民の子供の保護に関する対応などにおける与野党の対立を埋められず、1月20日から3日間の政府閉鎖を回避できなかった。このため上院共和党指導部は、2月8日の暫定予算期限までに、債務上限を引き上げて防衛予算に加え野党民主党が求める非防衛予算の増額を図る案を作成し上院民主党指導部との間で妥結した。
  • しかし、より厳格な財政緊縮を求める共和党上院の一部の議員が与野党合意に反発。また下院の民主党は与野党合意では不法移民の子供の保護等の対応が不十分であるとする議員が与野党合意に反発。これら2つの全く異なる理由による反対を受けた結果、与野党合意に基づく予算措置法案の成立が暫定予算期限切れの2月9日未明までずれ込んでしまい、短時間ではあるが、2018年における2度目の政府閉鎖に陥るという事態が起きている。
  • FY2018の債務上限が引き上げられたことに伴い、FY2018予算案の審議にも進展が予想される。NSFに関しては、FY2018大統領予算案ではFY2017比で約-11%となる66.5億ドルを要求していたが、上院案・下院案ともにFY2017比で約-2%となる水準を示していた。今回のFY2018、2019に係る債務上限の引き上げに当たり、大統領から議会への要求額はFY2017と同額の74.7億ドルへと追加されている。暫定予算の期限である3月23日に向けて、2018予算の成立に向けた議論が進められるものと見られる。

 

◇◆◇◆参考資料等◇◆◇◆

 

OMB公表資料
Addendum to the President’s Budget to Account for the Bipartisan Budget Act of 2018[PDF:6.38MB]
An American Budget-President’s Budget FY 2019[PDF:1.99MB]

 

NSF公表資料
National Science Foundation Summary Account Table FY2019 request to Congress[PDF:187.15KB]
National Science Board Committee on Strategy[PDF:40.69KB](NSF説明資料)

 

※各省庁の予算要求状況や、各年度の債務上限と予算案の関係については、以下の記事にコンパクトにまとめられている。
米国科学振興協会(American Association for the Advancement of Science:AAAS):The 2019 Science Budget Backs Off Some Cuts, Not Others(2018年2月12日付)

 

※議会における予算案審議状況や大統領予算要求、上院案、下院案等の相違などについては、以下のサイトにおいて随時情報が更新されている。
米国物理学会(American Institute of Physics):Federal Science Budget Tracker

地域 北米
アメリカ
取組レベル 政府レベルでの取組
行政機関、組織の運営 予算・財政