【ニュース・アメリカ】高等教育関係者、大学基金への課税を含む「減税・雇用法」の下での税制改革による悪影響を懸念

 
連邦議会は、税制改革法「減税・雇用法(Tax Cuts and Jobs Act)」案の詳細を2017年12月15日に発表した。発表された最終法案は、より多くの高等教育機関が影響を受ける可能性のある下院版法案よりも、変更が緩やかな上院版法案の内容を多く導入したものとなった。
 
高等教育に関連する主要な条項は以下の通り。

  • 大学院生の授業料免除:
    大学による授業免除・減額措置を受けた大学院生に対し、授業料減免額が課税対象収入と見なされないようにする条項を維持。下院版法案では、これらの免税措置を廃止していた。
  • 大学職員の扶養家族に対する授業料の特典:
    大学職員の配偶者及び扶養家族の子に対する免税措置を維持。下院版法案では、これらの免税措置を廃止していた。
  • 学資ローン利息の控除:
    学資ローン利用者に対し、支払った利息分を年間最高2,500ドルまで控除可能とする条項を維持。下院版法案では同条項の削除が提案されていた。
  • 私立大学基金税:
    学生数最低500人で、フルタイム学生1人あたりの資産価値が最低50万ドルである私立大学に対し、大学基金投資収入に物品税1.4%を課税。下院版法案では、フルタイム学生1人あたりの資産価値25万ドル以上の大学を対象としていた。本条項は、10年間で税収18億ドル増を見込んでおり、対象となる大学は、ハーバード大学(Harvard University、マサチューセッツ州)やスタンフォード大学(Stanford University、カリフォルニア州)などを含む約35校と推定されている。本課税対象大学の1校であるマサチューセッツ工科大学(Massachusetts Institute of Technology:MIT)では、ラファエル・リーフ(L. Rafael Reif)学長が、同大学教職員に対して税制改革法案による影響を説明した書簡を送付し、純投資収入が課税対象となることなどを通知した。MITに対する課税額は、年間最低1,000万ドルになるといい、学生に対する学資援助、革新的教育、先駆的研究などといった活動が縮小されるとしている。
  • 州税・地方税控除:
    納税者は、支払った州税・地方税最高1万ドルまでの控除が可能。上院版法案では控除の廃止が提案されており、公立大学を支援する州予算に影響を与えることが懸念されていた。但し、カリフォルニア州やニューヨーク州のような税率の高い州の大学では、控除額に上限があることを懸念。
  • 学資ローン返済免除:
    連邦学資ローン利用者が死亡もしくは障害者税控除対象となった場合はローン返済免除措置を適用。本条項の適用は2025年に終了。
  • 標準控除:
    配偶者が共同で税申告する場合の標準控除額を2万4,000ドル、個人で申告する場合の標準控除額を1万2,000ドルに引き上げ。このため、大学を含む非営利機関への寄付控除の利点が縮小され、寄付収入に影響を与える可能性。
  • 非課税債:
    非課税債に関する条項を維持するが、期前借換債券を廃止。

 
最終法案内容詳細の発表を受け、米国教育審議会(American Council on Education:ACE)のテッド・ミッチェル(Ted Mitchell)会長は、教育への特典の重要性が認識された内容と一定の評価をした一方で、学費高騰及び、大学における財政的安定性を弱体化させる可能性があるとした。
 
特に、標準控除、州税・地方税控除、及び、大学基金への課税に関しては、高等教育をより高額且つ進学しにくいものとする、誤った方向に進む措置として懸念を表明した。また、米国独立大学協会(National Association of Independent Colleges and Universities:NAICU)税政策ディレクターのカリン・ジョンズ(Karin Johns)氏は、学生に対する特典及び複数の重要な条項が維持されたことを評価した反面、高等教育機関に対する寄付に与える影響に関する懸念を表明した。
 
さらに、米国大学協会(Association of American Universities:AAU)のメアリー・スー・コールマン(Mary Sue Coleman)会長は、本税制改革法案は、学生、家族、地方コミュニティ、及び、非営利大学に損害を与えるものと批判した。なお、本最終法案は、12月20日に下院及び上院で可決され、同22日に大統領の署名を受けて正式に法制化された。
 
本法案は、「H.R.1 – An Act to provide for reconciliation pursuant to titles II and V of the concurrent resolution on the budget for fiscal year 2018.」から閲覧可能。

 
2017年12月18日
 
Inside Higher ED:Final GOP Deal Would Tax Large Endowments
 
Association of American Universities:AAU President Says Tax Bill Will Harm Students
 
MIT News:Letter regarding the new federal tax bill and its impact on MIT
 

地域 北米
アメリカ
取組レベル 政府レベルでの取組
学生の経済的支援 学生向け奨学金
レポート 海外センター