米国科学工学医学アカデミー(National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine)は2018年2月22日、誕生から幼稚園入園までの幼児ケア・教育(early care and education:ECE)の現状を検証した報告書「幼児ケア・教育の資金調達改革(Transforming the Financing of Early Care and Education)」を発表した。
本報告書は、質の高いECEは児童の健全な発育にとって非常に重要で、経済的利益をもたらす可能性があるものの、現行のECEの資金調達構造では、多数の児童が質の高いサービスを受けることができず、ECEの人材強化にもほとんど役立てられていないと指摘している。
また、児童の家庭外で提供されるECEの利用可能性・手の届く価格・質を変革するには段階的実行を必要とし、実行最終段階では、公共・民間(慈善団体・雇用主・家族)セクタから少なくとも年間1,400億ドルが必要と推測しており、各家庭が適正価格の支払計画に基づくコストを負担する場合、最終段階での公費負担額は、現在の年間約50億ドルから530億ドルに増額されると予測している。
資金のほぼ全額が公共セクタから拠出される幼稚園から高校3年(K-12)の公教育とは異なり、ECEは家庭による負担の割合が大きく、幼児教育システム改善を目指すビルド・イニシアティブ(Build Initiative)による推定では、ECEコスト全体の約52%を家庭が、46%を公共セクタが、2%を家庭以外の民間セクタが負担しているとの現状が明らかにされた。
さらに、収入が連邦政府の定める貧困ライン以下の家庭の場合、幼児教育費は収入の約20%を占めるのに対し、貧困ラインの5倍以上の収入の家庭では約6%で、低所得層家庭にとっては大きな負担となっている。同報告書は、理想的な資金調達構造は、高水準、質の高い適格な人材、及び、あらゆる社会経済・人種・民族・能力・地理的背景の家族に対する平等な利用機会を支援すべきとし、低・中・高所得層に応じて負担額を設定する家庭による支払い基準を連邦・州政府は策定すべきと提案している。
この他、質の高いECEに不可欠なECE教育者に関しては、過去20年間に亘って質及び教育水準の向上が強調されている一方で、給与の改善は強調されておらず、同等の教育水準の他の職種を大きく下回ることから、給与が適切なレベルに到達するまでの間は、ECE教育者による資格・能力強化のための取り組みに対しては、個人による費用負担をなくすためのシステム構築を提案した。
なお、本報告書は、「Transforming the Financing of Early Care and Education」で閲覧可能。
2018年2月22日
National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine:Financial Structure of Early Childhood Education Requires Overhaul to Make It Accessible and Affordable for All Families and to Strengthen the Workforce in This Field