米国科学工学医学アカデミー(National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine)は2017年4月12日、アフリカ西部におけるエボラウィルス感染症の大流行からの教訓に基づき、病気の流行の最中に臨床試験研究の迅速性及び有効性を向上させる手段の概要を提示した報告書「臨床研究の流行病対応への統合~エボラ感染症の経験~(Integrating Clinical Research into Epidemic Response:The Ebola Experience)」を発表した。本報告書は、将来の感染症流行と闘うにあたり、研究中の治療法及びワクチンの安全性及び有効性を調査する迅速且つロバストな臨床研究プログラムの実施は、低所得国における対応・研究能力の強化、影響を受けたコミュニティ在住者による関与、及び、流行前の安全性試験の実施にかかっていると提言している。治療法及びワクチンの研究開発は長期間を要する複雑且つ高価なプロセスで、急速な病気の流行においても短縮することはできず、新薬開発は、臨床使用に至るまでには最低10年間と経費26億ドルを要し、最終的に認可される可能性は12%未満と言われている。従って、病気の大流行が発生する前に治療法・ワクチンなどの研究開発を進めておくことが、流行発生時に有効な治療手段を確保する唯一の手段としている。また、有望視される製品のフェーズ1及び2の安全試験を事前に実施しておくことにより、病気の流行中に臨床試験のより迅速な計画・承認・実行が可能となるとしている。更には、次に流行病が発生した時に国内外での臨床試験対策を改善するために、同報告書を作成した委員会は、病気の流行発生前と流行中の両方の期間において、「能力の強化」「コミュニティによる関与」「国際調整・協力の促進」の3領域を重視している。この他、臨床試験を成功させるために、①患者に関する情報の収集・共有と治療基準の策定、②コミュニティの関与と相互の信頼関係構築、③研究努力の対応への統合とステークホルダーによる調整の促進、④ワクチン・治療法の優先順位付けと試験計画の選出、⑤契約交渉、⑥規制機関との相談、⑦独立倫理審査の実施、という7つの重要な段階を強調している。
なお、本報告書は、以下より閲覧可能。
National Academies Press:INTEGRATING CLINICAL RESEARCH INTO EPIDEMIC RESPONSE:THE EBOLA EXPERIENCE
National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine:Successful Clinical Trials to Create Drugs and Vaccines for Next Pandemic Disease Will Rely on Building Capacity, Community Engagement, and International Collaboration Before and During Outbreak