2015年9月、フォーリャ・デ・サンパウロ紙による大学ランキングの2015年最新版が公表されました。本レポートでは、このランキングで示されるブラジルの高等教育の状況について検証します。本ランキングは、公立・私立を問わないブラジルの192の大学を100満点で評価したもので、学術調査(配点の42%)、教育の質(32%)、労働市場の評価(18%)、国際化(4%)、イノベーション(4%)を評価基準としています。
2015年版ランキングでは、前回に引き続きサンパウロ大学が1位でした。上位5大学のうちの4大学、上位10大学のうちの5大学が南東部に所在しています。2位はミナス・ジェライス連邦大学(UFMG)からリオ・デ・ジャネイロ連邦大学(UFRJ)へと変わり、北東部の中では最も良い大学として評価されるペルナンブコ連邦大学が、サンカルロス連邦大学に代わり10位でランキング入りしました。
図1:2014年版ランキング
1位 | サンパウロ大学(USP) |
2位 | ミナス・ジェライス連邦大学(UFMG) |
3位 | リオ・デ・ジャネイロ連邦大学(UFRJ) |
4位 | リオ・グランデ・ド・スル連邦大学(UFRGS) |
5位 | カンピーナス州立大学(UNICAMP) |
6位 | ジュリオ・メスキータ・フィーリョ・サンパウロ州立大学(UNESP) |
7位 | サンタカタリーナ連邦大学(UFSC) |
8位 | ブラジリア大学(UNB) |
9位 | パラナ連邦大学(UFPR) |
10位 | サンカルロス連邦大学(UFSCAR) |
図2:2015年版ランキング
1位 | サンパウロ大学(USP) |
2位 | リオ・デ・ジャネイロ連邦大学(UFRJ) |
3位 | ミナス・ジェライス連邦大学(UFMG) |
4位 | カンピーナス州立大学(UNICAMP) |
5位 | リオ・グランデ・ド・スル連邦大学(UFRGS) |
6位 | ジュリオ・メスキータ・フィーリョ・サンパウロ州立大学(UNESP) |
7位 | サンタカタリーナ連邦大学(UFSC) |
8位 | パラナ連邦大学(UFPR) |
9位 | ブラジリア大学(UNB) |
10位 | ペルナンブコ連邦大学(UFPE) |
公立大学は連邦政府からの交付金にその経営を依存しており、国が直面する深刻な経済危機により、公立大学が直接的な打撃を受けています。例えば、サンパウロの州立大学の場合、交付金の金額は見込額を10%下回るものでした。にもかかわらず、予算の不足や種々のカットによる悪影響は、主要大学の成果・実績には直接及びませんでした。実際に、私立大学では最上位のリオ・デ・ジャネイロ・カトリック大学(PUC-RIO)は19位にとどまりました。
フォーリャ・デ・サンパウロ紙の記事によれば、サンパウロ大学が高い実績を維持したことは、特に、各種の経費削減、任意退職の実施等の赤字縮小のための方策を講じたことに起因しており、同大学のマルコ・アントニオ・ザゴ総長は、「大学の中核的な活動に影響しない部分で経費を削減している」と話しています。また、連邦大学の学長らは、大学の根幹を成す要素である人材の質は依然として高いため、予算状況は、長期的には教育の質に影響を及ぼさないであろうと考えているようです。
しかし、ブラジル国内で発表される学術論文の92%の研究が公立大学で行われることを考慮すると、学界における公立大学の重要性は疑いのないもので、調査研究の実施のための適切な環境の維持は、国の学術振興のためには欠かせないものといえます。中核的活動には直接関わらない経費削減であっても、多くの場合で、間接的に大学に不利益が及んでいることは特筆に値します。例えば、ある大学では給与のカットに端を発する職員のストライキが起こり、調査や研究を行うための図書館が閉鎖されました。
例えば、サンパウロ連邦大学(Unifesp)は、2014年のランキングで上位に入った大学の中で最も順位を落とし、12位から22位にまで下がりました。この順位の下落は労働市場からの評価低下が主な理由ですが、学術調査、イノベーションでも評価を落としました。定員の開設が、交付金の増加に見合ったものではなかったために、教育や職員の労働条件が悪化し、職員や学生のストライキが起こりました。
ここで再び、ブラジルの公立大学が国内の学術研究や発展に果たす役割の重要性が浮かび上がります。逆境に置かれても大学ランキングの上位に入るという事実は、これら公立大学が持つポテンシャルの大きさを示すものですが、連邦政府や州政府は、(高等教育への投資を)最重要事項とみなしていないことから、そのポテンシャルの大きさは完全に理解されているとはいえないのが実情です。
サンパウロ海外アドバイザー 二宮 正人