大学院修士課程の受験ブームに続き、博士課程の受験ブームも到来した。2022年には、少なからぬ高等教育機関が博士過程の募集枠を拡大。教育部が発表した2021年教育事業統計データによれば、2021年における中国の博士課程在籍者数は50万9,500人。労働市場にはそんなにたくさんの博士が必要なのか、新たな過当競争を引き起こさないか、博士の「粗製濫造」ではないか、といった疑問が生じるのも無理はない。
教育部は近年、「水増し学位の絞り出し」と銘打って博士論文の抜取り検査を強化しており、毎年、前年度の博士論文に対し、全体の10%の割合で検査を実施している。抜取り検査は、論文が提出された高等教育機関を関与させず、直接、国家図書館から論文を取り寄せて行い、3人の専門家のうち2人以上から「不合格」と判断されれば、問題のある学位論文と認定される。問題のある論文は、学位授与権を有する高等教育機関の査定においてもマイナスに働く。問題ある論文の数が多い学位授与機関は、期間内の是正措置を命じられるか、学位授与権を撤回される場合もある。統計によれば、2014年~2021年までに計103の高等教育機関が学位授与権の撤回、196の高等教育機関が期間内の是正措置を命じられている。
博士論文の質の向上は、論文提出前に、高等教育機関がいかに厳しくチェックをするかにかかっている。教育部のこの「辛口措置」に、各学位授与機関は神経をとがらせ、さまざまな対策を打ち出さざるを得ない状況になった。中でも多くの学校が採用したのが、事前口頭試問制度、つまり、博士論文の正式な口頭試問の前に、事前口頭試問とも言うべきものを行い、これに合格した者にのみ論文の学外審査を受ける資格が与えられ、正式な口頭試問に進むことができる制度だった。
この厳格な事前口頭試問制度の合格率は低く、多くの博士課程在籍者に緊張が走った。教育機関によっては、事前口頭試問の段階で、審査員のうち1人でも不合格と判断したら合格できないという全員一致制を取り入れているところもあった。事前口頭試問に合格できないということは、正式な口頭試問が数か月、あるいはそれ以上延期されるということを意味する。内部チェックを厳しくすることで、論文口頭試問は「形式上の手続き」であるという誤った概念をかなりの程度正すことに成功した。
厳しい全プロセス管理は、博士教育の質を高めるための基本作業だ。現在、多くの博士課程では、博士資格試験を実施している。博士資格試験は、博士課程における重要な中期考査メカニズムで、試験内容は通常、専門領域の基本文献、主な研究方法、自身の研究分野などが課される。博士資格試験は多くの国で実施されており、試験に合格しなければ「博士候補者」とは見なされない。
この試験は気合を入れて臨まなければならない「地獄の試験」で、試験時間は7~8時間にも及ぶ。博士課程の学生は数か月間、専門領域の主要文献を読み込むなどの準備をして、試験を通過する実力を養う。博士課程在籍者は卒業後、教職に就く者が多いが、何年も経ってから、学問の基礎を築いてくれたこの試験に感謝の念を抱くという。博士資格試験は博士論文執筆のスタートラインでもある。しかし、通常、博士資格試験あるいは二次試験の合格率は高いことから、勉強のモチベーションを上げる役割は果たしているものの、一定数を淘汰する仕組みにはなっていない。
明確な退出機制は、博士号の質の向上のためにも必要な措置である。なぜなら、結局のところ、自分が本当に学問に向いているかどうかが分かるのは、博士課程進学後だからだ。現段階での主なドロップアウトは、在籍年限までに修業要件を満たせなかった場合、あるいは途中で履修を中止して退学した場合のどちらかだが、両者ともそこに至るまでにある程度のコストがかかっているため、成功しないで引き返す訳にはいかないと、無理にでも博士論文を完成させる現象が後を絶たない。修士号の取得を以て博士課程の退出手段とすることは、比較的柔軟な退出機制と言えるだろう。
専門職型ではない学術型の博士は多ければ多いほどいいという訳ではない。博士教育は中国における学歴教育の最高峰である。その主な位置付けは、学術研究および理論面でのイノベーション能力、難題克服能力の育成と、研究職に研究者とその予備軍を輩出することである。学術型博士の育成においては、学術研究人材を育成するという目標が明確に定められている。国が在職者の博士号取得に対する管理を強化し続けていることを受け、高等教育機関側でも、在職者の募集を停止し、博士教育の質の管理を厳格化するところが増えている。
だがそれは、博士号の需要の低下を意味するものではない。中国経済が質の高い成長段階に入るにつれ、人材の専門化に対する要求も高まり、社会の特定の職業領域向けに、ハイレベルな応用型専門人材を育成する必要が出てきた。2020年9月、国務院学位委員会および教育部は「専門学位大学院教育発展計画(2020~2025)」を発表し、専門型学位の発展が立ち遅れているとした。専攻設置は単一で、学位授与機関は極めて少なく、育成規模も小さいこと、産業界のニーズに応えられていないことが指摘された。また、専門型博士育成課程に進むべき人材が、選択肢の少なさ故、学術型博士育成課程に進まざるを得ない状況があることを指摘し、学術型博士教育を強化・洗練して、専門型博士の育成を強化することこそが、中国における博士教育システムを整備し、学位の価値を高めるための道であると述べた。
また、博士号の価値およびそれを必要とする職業に対する社会の認識を深めていくよう導いていくことも必要である。博士号の取得は、一般に考えられているよりはるかに難しい。博士課程で学ぶということは、真剣に学問を志し、職業として選択するということであり、その学術的訓練の過程における苦労は並大抵のものではない。修了後に学術研究を主とする職業に就くことも、誰にでも向いている訳ではない。今後、学術型博士の育成システムを整え、博士学位の専門類別と国の重要産業分野で必要とされる人材とのマッチングの度合いを高めていくことで、博士人材の育成の質は絶えず向上していくだろう。
中国青年报 2022/08/12
澎湃新闻: 媒体刊文谈“考博热”:是否会掀起一场新的内卷
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