【ニュース・中国】公布間近の「学位法」、研究不正の抑制なるか?専門家は高等教育機関主体の学位授与推進を提案(1)

 

中国の学位法制度を整備し、大学院生教育事業の発展を促し、学位業務の質向上を図るため、教育部は第13期全国人民代表大会常務委員会の立法
計画に従って「中華人民共和国学位法草案(意見募集稿)」を検討・制定し、先頃、意見公募を行った。

 
本紙記者が得た情報によると、学位法草案意見募集稿は計7章38条から成り、法律の適用範囲、学位管理体制、学位授与手続き、学位の質保証と
救済措置等に関する規定が設けられている。意見募集稿の規定によれば、国務院が学位委員会を設置し、全国における学位授与業務を指導する役割
を担う。

 
中国教育科学研究院研究員の儲朝暉氏によると、学位法草案意見募集稿は現行の「中華人民共和国学位条例」を改定したものだという。学位条例
は1981年1月1日より施行された、中国の教育分野における初の法律である。

 
「学位に関する法制度を整備し、学位授与に関する行動をさらに規律することで、学位申請者の合法的な権益を保護し、学位制度の実施を確保する
ことは、中国教育事業の質の高い発展を促すことにつながる」と儲氏は言う。

 
研究不正が高等教育の一大「難病」に

 
意見募集稿では次のように指摘されている。国が実行している学位制度の学位は学士、修士、博士の3等級に分かれており、学術学位、専門学位
などの類型がある。学位は、学科の知識、能力、学術レベルを証明する重要なバロメーターであるにも関わらず、これまでにも論文の盗用・剽窃
といった不正が散見されており、高等教育分野における一大「難病」にさえなっている。

 
2019年に発覚した俳優・翟天臨の論文不正事件がその典型例だ。

 
翟天臨氏は生放送で発した「『知網』[訳注:日本のCiNii(NII学術情報ナビゲータ)に相当する学術情報データベース]って何ですか?」という
一言がきっかけで、博士という学歴に疑惑の目を向けられるようになった。その後、関連部門および北京大学の調査により、翟氏は大学院博士課程
在籍中に発表した1本の論文の核となる部分で、他の専門家の論説を使用していながら、引用注釈を施しておらず、研究不正があると認定され、
最終的に博士号を取り消された。

 
「論文の盗用・剽窃行為は、その行為をする者の不誠実さを表すだけでなく、他の学生に対しても極めて悪い影響を及ぼす」と天津外国語大学
国際商学院の李名梁教授は指摘する。盗用・剽窃という行為は、運良く発覚しなかった場合でも、学生の間で切磋琢磨する雰囲気を損ない、真剣に
学問に取組まず、分からないことがあれば他人の成果を「参考」にすればよいと考える良くない風潮を生み、ひいては、学術研究の発展を阻害する。
研究成果を盗用・剽窃された側にとっては、極めてショッキングな出来事であり、学術研究に対する積極性に直接的な影響が生じる。

 
李氏によると、一部の学生は論文の盗用検査における重複率を下げるために、盗用・剽窃した部分の言い回しを変えたり、段落を入れ替えたり
という修正を繰り返した結果、論理性に欠けた論文を提出している。また、論文執筆の過程で主観的に調査データを編集し、文献からの引用を
曖昧にしている学生もいると言う。

 
こうした風潮について儲朝暉氏は、学術におけるねつ造、研究不正は、信頼性や公平性といった問題に留まらず、学術環境全体の健全な発展を損ない、学術研究理論に背き、学術界のイノベーションの足を引っ張り、科学技術の進歩を阻害するものだと指摘する。

 
 
学位取り消しを招きかねない3つのケース
 
学術におけるねつ造、研究不正の問題について、意見募集稿では次のように示されている。学位申請者が学位を授与する側の組織に在籍中に、
学位申請、査読、口頭試問の過程で不正、ねつ造等があった場合、学位評定委員会は学位不授与の決定を下すことができる。

 
すでに学位を取得した者が、以下の3つのケースのうち、1つでも該当する場合、同学位の取得過程で重大な剽窃、偽造、盗用、データねつ造等の
研究不正があったものとして、学位評定委員会による審議・決定を経て、学位授与組織が学位を取り消し、学位証書を回収または無効を言い渡す。

  1. その研究成果の質が基準に達していない。
  2. 替え玉、私利目的の不正等の違法手段で入学資格または卒業証書を取得した。
  3. 在籍中に学位を授与すべきでないと考え得るその他の違法違反行為があった。

 
儲朝暉氏によると「これは意見募集稿の目玉と言える」。
 

現行の学位条例第十七条には、「学位授与組織はすでに授与した学位について、不正行為等本条例の規定に違反する重大な状況が発覚した場合、
学位評定委員会による再審議を経て、これを取り消すことができる」という規定があるが、同規定は原則論にとどまり、実際に研究不正等の行為を
取り締まる効果に乏しかった。

 
意見募集稿では、学位申請者の行為に直接言及するのみならず、さらに研究不正、ねつ造等の具体的な事由を列挙することで、ボーダーラインを
示し、抑止効果を高めている。

 
また、意見募集稿では学位申請者に弁明の機会を与えている点も注目に値する。すなわち、学位授与組織は、学位不授与または学位取消しの決定を
下す前に、学位申請者または学位取得者の陳述・弁明を聴取しなければならないという規定が設けられている。

 
2021/3/30


澎湃新闻: 学位法呼之欲出能否遏制学术不端?专家建议推进高校自授学位


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