【ニュース・ドイツ】ヒルデ・ドミーン・プログラムの1年間:「奨学金が私のアカデミック・キャリアを救った」

 
ドイツ学術交流会(Deutscher Akademischer Austauschdienst: DAAD)のヒルデ・ドミーン・プログラムは、世界中の危機に瀕した学生や博士号候補者を支援している。1年前の開始以来、このプログラムは大きな成功を収めている。DAADは合計で135件の奨学金を授与している。

 
言論・表現の自由は、世界的に深刻な脅威にさらされている。ロシアでも、トルコでも、アフガニスタンでも、多くの国において、現政権に反対の立場をとる者は、圧力を受け、排斥され、迫害される。また、こういった現状は、学問の自由、すなわち学習・教育・研究の独立性にもますます影響を与えている。

 
Academic Freedom Index によると、現在、全世界の80%の人が学問の自由が制限された国で生活していると言われている。学問の自由を守る学術機関の国際ネットワーク「Scholars at Risk Network」により確認された高等教育機関への攻撃は、2020年1月から2022年9月の間で約900件に上る。最も多い事件は、殺人、暴行、強制失踪(37%)、逮捕(26%)、起訴(11%)である。加えて、未報告のケースも多いと考えられる。

 
こうした脅威を背景に、DAADは連邦外務省の資金援助を受け、ヒルデ・ドミーン・プログラムを開始した。この奨学金制度は、出身国で教育を受ける権利を奪われた世界中の学生や博士号候補者を支援するものである。このプログラムの支援により、派遣された学生はドイツで学業を開始または継続し、安全な環境のもとで大学の学位や博士号を取得することができる。

 
「恐らく、あなたも私を殺したでしょう」

 
29歳のアミラ*は、ドイツの農学部で博士課程に在籍している。彼女の母国アフガニスタンでは、2021年にタリバンが政権を掌握して以来、女性はアカデミアから排斥され、彼女が博士号を取得するチャンスは失われた。「私のアカデミック・キャリアはヒルデ・ドミーン・プログラムによって救われたと率直に言うことができます。それにより、今は、目の前に素晴らしい未来が広がっていることを実感しています。女性として、アフガニスタンでは私は大学の閉ざされた門戸に直面したことでしょう。」

 
ミャンマーのニッキー*も同様である。ヒルデ・ドミーン・プログラムの最初の奨学生で、39歳のイスラム教徒である彼は、社会・政治人類学の博士課程に在籍している。これは、彼の母国ではありえないことである。ミャンマーでは、仏教の影響を受けた軍事政権が、国内のさまざまなイスラム系少数民族を弾圧している。例えば、ムスリムであるロヒンギャの人々は無国籍とみなされ、選挙権や被選挙権が認められておらず、病院や学校へのアクセスもままならない。また、他のイスラム教徒グループは二流市民として扱われ、構造的暴力に苦しんでいる。政治的な反対意見は許されない。「私は母国では有名な政治活動家です」とニッキーは言う。「2021年の軍事クーデターの後、私は逮捕されるかもしれない、もしかしたら殺されるかもしれない、という危機にありました。ヒルデ・ドミーン・プログラムは、私と私の家族を軍の恐怖から救ってくれたのです。」

 
ドイツ語コース、異文化理解トレーニング、カウンセリング

 
サポート内容は、生活費をまかなうための毎月の給付金、保険、交通費などである。奨学生が持っている語学力や、学業および研究活動における必要性に応じて、2ヶ月、4ヶ月、6ヶ月のドイツ語コースが提供される。さらに、ドイツでの学業開始にあたり準備のためのオリエンテーション、異文化理解トレーニング、ビザ申請サポート、カウンセリングなどを受けることができる。

 
候補者は、ドイツ国内に法人格を持ち、科学、研究、教育、人権擁護、民主主義、法の支配、平和構築の分野で活動を行う機関、例えば、大学、人権団体、財団などから推薦される。推薦が受け付けられた後、DAADは候補者に応募を呼びかける。選考では、各候補者がいかに危機に瀕しているか及び学術業績の両方が評価される。奨学金の採用が決定されると、採用者は自国または第三国からドイツに渡航することとなる。専門分野および大学は自由に選択することができる。

 
奨学金支給枠の何倍にも上る応募数

 
2022年10月13日、DAADはヒルデ・ドミーン・プログラムの1周年を記念するイベントを開催した。このプログラムは開始以来、大きな成功を収めており、2022年6月までに合計135名が奨学金を受けている。奨学金受給者の出身国で最も多かったのはアフガニスタンで、74人が採用された。これには、2021年にアフガニスタンでタリバンが政権を奪取したことを受けてDAADが設立した、アフガニスタンの学生・博士号候補者に対する特別枠(26名)が含まれている。その他、ベラルーシやミャンマーなどの国からも多くの受給者がいる。現在の世界情勢により、推薦や応募の数が支給可能な奨学金枠の何倍にも上っているため、すべての候補者が考慮されることは難しい状態である。

 
DAAD中東・北アフリカ部門長のPhilipp Effertzは、「ヒルデ・ドミーン・プログラムの設立は正しい決断であるということが証明された」と述べる。「アレクサンダー・フォン・フンボルト財団(Alexander von Humboldt-Stiftung: AvH)のフィリップ・シュヴァルツ・イニシアチブと組み合わせることで、学士課程の学生から経験豊富な研究者まで、高等教育や科学分野において危機に瀕し弱い立場にある人たちすべてに幅広くアプローチすることができる。」

 
*奨学金受給者の安全性を確保するため仮名としている。

 
2022年10月25日


DAAD:Ein Jahr Hilde Domin-Programm: „Das Stipendium hat meine akademische Laufbahn gerettet“


地域 中東欧・ロシア
ドイツ
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