2018年3月15日、英国の社会的流動性を改善することを目的とした財団であるSutton Trustは、特に2012/2013学事年度のイングランドにおける学費改定の影響に焦点を置き、過去10年間でのパートタイム学生数の劇的な減少を調査した報告書を発表した。この報告書“The Lost Part-Timers”は、Birkbeck, University of London(注:夜間課程を特色としている大学)のClaire Callender氏と、John Thompson氏の共著である。
報告書での主な発見:
- 2010年以来、イングランド在住者で英国の高等教育及び継続教育機関へパートタイムの学部生として入学する者の数が年々下落している。2015年までに、この数字は全国的には51%減少し、Open University(注:柔軟な遠距離教育の提供を特色とする大学)においては63%、他の英国の高等教育機関・継続教育機関では45%減少している。
- この報告書では、実質的な学費値上げをする一方で資産調査に基づく奨学金を廃止し、学生ローン制度を開始した2012年の学費改革の役割に焦点を置いている。しかし、最近の(入学者)数の下落は、二つ目の学位を取ろうとする多くの卒業生への学資提供の終了、景気後退の影響、そして巨大なオンライン課程(MOOCs)などの記録に残らない学習機会の増大といった要因による、より長期的な減少という文脈の中に位置している。
- 報告書では、学費の値上げが、これらの従来からあった傾向を顕著に悪化させたことを示している。Open Universityのデータで最も納得できる証拠が出ている。2011年から2012年の間に、スコットランドとウェールズの学生にとっての学費の実質的上昇が2%であったのに対して、イングランドの学生にとっては247%もの上昇があった。2015年までに、スコットランドでのパートタイム学部生の数は2010年比で22%減、ウェールズでは46%減、イングランドでは63%減となっている。これは、学費上昇の結果として一層数字が大きくなってしまったということを除いて、イングランドでの学生の減少は2012年の制度変更にかかわらず生じていた可能性があることを示している。
- この減少の約40%は、学費の改定に原因が求められる。もしイングランドのパートタイム学生数がウェールズに住む者(学費上昇の影響を受けない者)と同じ比率で減少していたとしたら、2015年には106,000人ではなく149,000人のパートタイム学生がいたはずである。
- 最大の下落があったのは、学位取得には繋がらない単位を得る科目のような、学位未満の資格獲得や、難易度の低い科目(フルタイムの場合に比べて25%以上低い)の受講をしている、35歳以上の成人学生層である。
- 特に、若いパートタイム学生はフルタイム学生よりも裕福でないことがよくあるため、パートタイム学生の減少で、高等教育への参加拡大に対し重大な連鎖反応が出てしまっている。恵まれない環境についてPOLAR※の指標を用いると、フルタイム学生で最も恵まれない層の出身率が12%しかなかったのに対し、パートタイム学生の場合は17%であった。
- しかし、2010年から2015年の間では、最も恵まれた環境からの若い新入生の減の方が高かった。その値は59%であり、一方最も恵まれない環境からの学生では(減少率は)42%であった。ただ、高等教育へより多く進学する必要のある集団にとって、42%の下落というのは特に重大である。
勧告内容:
- 政府の18歳以降の高等教育見直し作業では、高等教育進学の障害を減らすため、パートタイム学生および成人学生にとっての学費のコストの解決に取り組む必要があることが認識されるべきである。
- より長期的に、政府は成人学生とパートタイム学生の減少を食い止めるための最も効果的な追加支援の用い方について検討すべきである。
- 有望な学生達のために、学費と学生ローンの資格情報がより一層明確となるべきである。
- 特に、あまり恵まれない人々のため、生涯学習を再度活性化するために資源が投じられるべきである。
- 将来の政策の基礎をなすデータの収集は改善すべきである。
※POLAR:英国全土で若者がどれだけ高等教育に進んでいるかを見て、またそれが地域ごとにどう違うかを示す統計。各地域で高等教育に進んだ18-19歳の人口に基づき、各地域を5段階に分けたもの(1が低く5が高い)
The Sutton Trust:The Lost Part-Timers