【海外センターレポート・ブラジル】2018年の学生向け融資基金について

2017年7月6日、ブラジル連邦政府は、教育省による高等教育機関の学生向け(私立大生向け)融資基金「Fundo de Financiamento Estudantil:FIES」の新プログラム「Novo FIES(Financiamento Estudantil)」(以下「新FIES」 )を2018年からスタートさせ、31万件の融資契約を見込んでいることを発表しました。この「新FIES」の31万件の枠は、「FIES 1」「FIES 2」「FIES 3」の3種類に分けられており、このうちの「FIES 1」の10万件の融資は無利子(ただし返済金額には通貨価値修正分のみが付加)で、一人当たりの1ヶ月の世帯所得額(一世帯の所得を、その世帯の構成員数で割った金額)が最低賃金3倍以下の家庭出身の学生に適用されます。この「新FIES」は、2018年以降にFIESの融資契約を結んだ学生に適用されます。

 

メンドンサ・フィーリョ(Mendonça Filho)教育相によれば、融資のための銀行手数料は各大学が負担するため、政府にとってはその分、3億レアルの支出削減となります。また、各大学が融資オペレーションのリスクを軽減できるよう、保証基金が設立されます。
「今後は、各大学も回収不能の被害を受けることになるため、融資される金額の回収を徹底しなければならない。不良債権が増えてしまえば、それだけ保証基金に資金をつぎ込まなくてはならなくなる。」大統領府で行われた新FIESの発表時に、同相はこのように述べ、「良い面でも悪い面でも、(私立大学は)国の融資プログラムのパートナーとなることが求められる。」と語気を強めました。

 

同相は、今回の方針変更はこの融資基金の継続を保証するものと説明しており、過去のデータによれば、このプログラムの融資件数の46.4%が貸し倒れとなっており、この未回収部分を国の資金で賄わなければならない状況になっています。

 

O DIA:Novo Fies terá 100 mil vagas a juro zero 「新FIESが、無利子で10万件の融資を提供へ」2017年7月6日付(2017年7月17日閲覧)

 

【方針変更の背景】
この方針変更を有効なものとするために、政府は連邦議会に暫定措置令案を提出する見込みです。この暫定措置令案は、回収不能率が約46%の融資基金プログラムの建て直しを図るもので、融資の枠が埋まらないことに対する大学や教育関連団体からの抗議の声もありました。

 

メンドンサ・フィーリョ教育相は、旧FIESが、“コントロールの無い状態”で、“継続可能性が見込めない”形で運営されており、国の資金だけが負担を負う状態になっていたと説明しています。
同相は、この方針変更を「政府の負担軽減のために必要不可欠なもの」としており、「公共政策の実行においては、より環境に恵まれない層への政策を最優先とすると同時に、国が責任を負う部分の線引きをすべきであり、それをせずして財政健全化はあり得ない。」と話しています。

 

G1.globo:Novo Fies terá desconto automático no salário do estudante após formatura 「新FIES導入で、融資利用学生の給与から返済額を自動引き落とし」2017年7月6日付(2017年7月17日閲覧)

 

【返済金の給与からの天引き】
また、新FIESでは、貸し倒れを少なくするため、融資を受けた学生が大学を卒業して就職した後、その学生の毎月の給与から返済額が自動的に天引きされることになります。
この天引きは、融資利用者が開設した会社が得た収益にも適用されます。融資を利用した学生が正規の収入を得ていない場合、在学時から支払っていた同率の分担金(学費の一部として学生が自ら負担する金額。この金額のパーセンテージは世帯所得額や月々の学費によって決まります。)の支払いを継続します。

 

【2017年までのFIESと2018年以降のFIESの違い】
以下は、2017年までのFIESと2018年以降のFIESの違いを比較した表です。表中には、これまでに発表された主な変更点を盛り込んでいます。

FIES 2017 FIES 2018
融資対象となる学生の世帯所得 一人当たりの世帯所得が最低賃金3倍以下 一人当たりの世帯所得が最低賃金3倍~5倍
契約の種類 一種類のみ
《FIES 1》 一人当たりの世帯所得が最低賃金3倍までの家庭出身者。無利子。枠は10万件。
《FIES 2》 一人当たりの世帯所得が最低賃金5倍までの家庭出身者(ブラジル北部、北東部、中西部のみを対象)。利率3%。枠は15万件。
《FIES 3》 一人当たりの世帯所得が最低賃金5倍までの家庭出身者。利率は未定だが、民間銀行の金利を下回るものとなる予定。枠は6万件。
返済額 月毎の返済額は、契約内容と返済段階によって様々。収入額に占める返済額の割合の制限は無し。 月収入額の10%まで
据置期間 卒業後18ヶ月間 卒業し、就職するまで
利率 年利 6.5% 0%~3%(契約の種類による)
融資対象学生の在籍する学部 医学部生、工学部生、教員養成過程履修生を優先 優先される学問分野は無し
月々の融資額 月々の融資の限度額は5千レアル 月々の融資の限度額は未設定

【結論】
2018年以降開始される「新FIES」は、2017年までの制度と比べてより厳格な、合理的なプログラムとなっています。新たな制度では、大学もFIESの維持責任を負い、これまでは政府だけが負っていた回収不能リスクを大学も共有することで、回収不能率の高いこの融資プログラムのより安定した運営を期待できるといえます。

 

サンパウロ海外アドバイザー 二宮 正人

 

地域 中南米
ブラジル
取組レベル 政府レベルでの取組
行政機関、組織の運営 政策・経営・行動計画・評価
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