【海外センターレポート・ブラジル】連邦高等教育機関に適用される「特別枠法」の障害者への拡大について

2016年末、連邦大学と連邦の中等教育レベルの専門学校(以下「連邦高等教育機関・専門学校」)における、障害者の入学特別枠を認める法律第13.409号が裁可されました。この特別枠を認める制度そのものは既に2012年法律第12.711号(「大学入学特別枠法」、以下「特別枠法」)で発足しており、この法律では、連邦高等教育機関・専門学校において、低収入家庭出身者、自らの人種が黒人・褐色・インディオと自己申告する学生への入学の特別枠設置が義務付けられました。

 

この「特別枠法」は、まず第一の基準として、連邦大学では各学科(昼間・夜間コース別)の定員数の最低50%を中等教育の全課程を公立学校で学んだ学生に対して割り当て、連邦の中等教育レベルの専門学校の場合は、同じく定員の50%を初等教育の全課程を公立学校で学んだ学生に対して割り当てることを定めたものです。第二の基準は、そのうちのさらに50%を低収入家庭(一人当たりの収入が最低賃金の1.5倍以下の家庭)出身者に割り当て、さらにその中で黒人・褐色・インディオと自己申告する学生に対して特別枠を設けるというものです。昨年末に裁可された法律で、この特別枠を認める対象に障害者が加わりました。黒人・褐色・インディオ・障害者への特別枠が全体に占める割合は、その大学が所在する州の人口に黒人・褐色・インディオ・障害者が占める割合に応じて決まります(その割合は、IBGE(ブラジル地理統計院)のデータが基になります)。 (図1)

 

「特別枠法」が定める定員の割当

 

この法律の制定前は、黒人・褐色・インディオ・障害者への特別枠を設けるか否かは各連邦大学の裁量に任せられており、義務ではありませんでした。ただし法律制定前は、59の連邦大学のうち、黒人・褐色・インディオの学生への特別枠や何らかの恩恵の制度を設けていたのは27と全体の半分以下です。教育省の継続教育・識字教育・多様性・社会的包摂担当局長イヴァナ・シケイロ氏は、この今回の新たな法律について「権利を平等にし、この(特別枠の)恩恵を障害者にも拡げるもの」と説明しています。(*1) 2012年の「特別枠法」では、この50%の特別枠制度は4年間で段階的に導入し(すなわち2013年に12.5%、2014年に25%、2015年に37.5%、2016年には50%)するものとされ、全ての連邦高等教育機関・専門学校で2016年下期開始までに達成すべきと定められました。

 

この特別枠制度の導入の背景には、ブラジルの公立学校の質が理想とは程遠い状況にあるという現実があります。公立学校では、「教師は教えているふりをして、生徒は勉強しているように装っている」という暗黙の了解があるほどです。公立学校で中等教育を修了した学生は、公立大学入試で私立学校で学んだ生徒と互角で競える学力を持ち合わせていないことが多く、そのため大学進学そのものを諦めたり、私立大学に進んだりします。

 

ただ、この特別枠の制度には反対の意見もあります。全国私立大学連盟(Fenep)は可決以前からこの法律が「大学進学の平等な権利を損なうもの」と訴え、全国連邦大学管理者協会(Andifes)も、「これまでは、特別枠の配分は大学の裁量に任せられていた。(法律は)大学の自治権を侵害するもの」として反対の立場を示しました。(*2)

 

この制度発足後、Andifesが2016年8月に公表した調査結果によると、この法律の発効以降、連邦大学・連邦の専門学校に入学する学生の社会経済的プロファイルは多様化しています。データによると、黒人・褐色、低収入家庭出身者の学生数が増加し、入学者の平均年齢も若干上昇を見ました。最初の調査年の2003年は、ブラジルの全人口の51.96%が白人と申告し、大学ではその割合は59.4%でした。一方、褐色だと申告したブラジル人は全体の41.47%で、大学では28.3%にとどまりました。約10年後の2014年、褐色と申告したブラジル人は全体の45.05%で、大学では37.75%でした。それだけでなく、この約10年間で大学の学部生の数は46万9848人から93万9604人と約2倍に増え、黒人・褐色の学生数については16万257人から44万6928人と、178%増となりました。ただし、この増加は特別枠の設置だけに起因するものではなく、高等教育機関の学生向け融資基金(Fundo de Financiamento Estudantil:FIES)や「国民全員に大学教育を」プログラム(PROUNI)といった奨学金プログラムの開始なども大きな要因でしょう。また、Andifesは、「自らの肌の色・人種に関する視点の変化、再解釈の動きが起きた。すなわち、かつては自らを白人と申告していたが、褐色・黒人と解釈するようになった学生が増えた」ことも要因と見ています。 (*3)

 

サンパウロ海外アドバイザー 二宮 正人

 

*1 2016年12月30日付「Jornal Zero Hora」配信記事「特別枠法の適用範囲拡大で、専門・高等教育機関における障害者の特別枠設置へ」(Lei garante vagas para alunos com deficiencia naeducacao tecnica e superior)2016年1月16日閲覧
*2: ニュースサイト「UOL」2012年9月25日付(2016年12月30日更新)配信記事「特別枠法とは」(Lei de Cotas)2016年1月18日閲覧
*3: ニュースサイト「G1」2016年8月18日付配信記事「特別枠法制定後、連邦大学の学生増、特に黒人学生の増加が顕著との調査結果」(Após cotas, universidades federais ficam ‘mais populares e negras’, diz estudo)2017年1月18日閲覧
地域 中南米
ブラジル
取組レベル 政府レベルでの取組、大学等研究機関レベルでの取組
大学・研究機関の基本的役割 教育
人材育成 学生の多様性
統計、データ 統計・データ
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