【海外センターレポート・ブラジル】学術誌に掲載される論文に関する分析

本レポートでは、ブラジルにおける学術研究の状況に関する、雑誌『Pesquisa FAPESP』の直近の号に掲載された学術論文についての分析を行います。本件については、「第10回ブラジルの研究グループに関する大規模調査(DGP)」の結果をもとに、過去のレポート(特に「ブラジルの研究の質・研究グループについて」「ブラジル国内の優良大学に関する分析」)でも取り上げました。FAPESP(サンパウロ州調査研究支援財団)は、学術研究の振興を目的とする、サンパウロ州高等教育局が管轄する公的機関です。州内の学術研究にとどまらず、国内外の学術研究を中心に扱う月刊誌『Pesquisa FAPESP』を発刊しています。

「第10回DGP」によれば、ブラジルの学術調査は、その研究グループ数においても、従事する学生の数の上でも、人文科学と保健学の分野で最も活発に行われています。人文科学は、研究グループ数では全体の16%、従事する学生数では18%を占めます。従って、ブラジルの主要な学術誌である同誌に掲載される論文を分析することは、これら人文科学分野の研究グループの活動状況、研究の実施状況を知るためにはよい方法といえます。

最初の分析のポイントは、毎月の号の巻頭記事の題材です。巻頭記事の題材は、編集者や学界一般によって重要と考えられているある特定のテーマです。2015年発刊された1月号から11月号の巻頭記事のうちの4つが、保健学に関するものでした。2月号は未熟児の数を増加させる不必要な帝王切開出産、3月号は諸疾患に関する知識習得に寄与する新たな検視の方法、6月号はデング熱、11月号は、特定のヒト遺伝子と稀少疾患との関連付けを可能にするDNAについての新たな研究が、巻頭記事のテーマでした。保健学分野の研究を扱った巻頭記事は、現在までにおいて全体の36%に上り、この割合は、保健学分野の研究グループ数、従事する学生数の割合を上回ります。

一方、2015年発刊された11冊のうち、10月号の巻頭記事は唯一、人文科学のテーマといえる移民の流入への抵抗感、嫌悪感に関するものでした。人文科学のテーマの巻頭記事は、主要なテーマのうちの約9%にとどまっており、研究グループ数・従事する学生数と、人文科学分野の調査研究に関する一般人の認知度が比例していない現状が見て取れます。このことは、人文科学分野の研究の質が低いことを示しているのではなく、ブラジルでは、おそらくより実用的で目に見える研究結果をもたらす精密科学、生物学が優先される傾向にあることを説明するものです。ブラジル最大の学術交流プログラムである「国境なき科学」には、人文科学の分野は一つも含まれていませんでした。

このアンバランスは、同誌上に掲載される論文の内容を見ても明らかです。「自然科学」のセクションでは各号で常に6本か7本の論文が掲載されていますが、「人文科学」のセクションでは2本か3本です。このことからも、国内において学術研究の普及を担う主要な雑誌である『Pesquisa FAPESP』が、国で最も研究者数が多い分野である人文科学の研究結果を、然るべき割合で扱っていないということがわかります。
しかし、大学ランキングで最も優良と評価された主要な大学において強いのは、保健学分野です。サンパウロ大学では、同大学で活動する研究グループのうち26%が保健学分野であり、人文科学は13%です。人文科学分野における実際の研究の数と発表される論文の数が比例しておらず、だからといって研究の質の低さを示すものではないものの、同誌はブラジルの最良の研究機関で行われている研究の論文を優先して掲載していることがわかります。

いずれにしても、ブラジルにおける学術調査に関する事実や数値データと、学界で発表される論文の数を比較することは、ブラジルにおける学術研究の実態を俯瞰するために有用といえます。特に「Ciência & Tecnologia(科学と技術)」と呼ばれる分野の研究数の増加が確認できますが、研究の質、学術研究の土壌である社会情勢を大きく反映する研究テーマを今後も注視することが肝要です。

サンパウロ海外アドバイザー  二宮 正人

地域 中南米
ブラジル
取組レベル 大学等研究機関レベルでの取組
大学・研究機関の基本的役割 研究
統計、データ 統計・データ