【海外センターレポート・ブラジル】ブラジル高等教育・学術情報(2015年5月)

2015年5月初め、サンパウロ州のジェラルド・アルキミン知事は、州議会に提出した2016年の予算方針法案で、サンパウロ大学(USP)、サンパウロ州立大学(UNESP)、カンピーナス州立大学(UNICAMP)の三大学に交付する、ICMS(商品流通サービス税。※ブラジルの各州及び連邦直轄区が権限を持つ州税の一つ)の割合の変更を定めました。

周知の通り、この三大学は、ICMSの税収を元手として、州政府から予算枠を割り当てられています。州知事の法案は、これまで交付金の下限額をICMSの9,57%としていたのを、上限額へと変更する、つまり、ICMSの9,57%の金額を、州政府が三大学に交付する最大金額にするというものです。

2014年、景気後退でICMSの税収が減少し、それにより大学への予算が約2億2千万レアル減少しました。三大学では、人件費の予算に占める割合が大きく、不況の煽りを受け財政回復が困難となりました。収入減少に伴う赤字を理由として、サンパウロ州立大学学長審議会(CRUESP)は、既に州経済科学技術開発局に対し、大学への交付金をICMSの9,57%から9,907%に増額することを要請していました。そのため、2016年の州予算に対し知事が上記提案をしたというニュースを耳にし、116,%増の給与調整と州立大学間の給与の平等(同一職務同一賃金の原則)を訴えていた教職員や、学生らは抗議行動に出ました。

州政府は、交付金を減額するという意図はなかったと弁明し、学生への奨学金や調査研究費、交通費、住居及び生活費の手当て等についても見直しを行っていると説明しましたが、大学関係者の反応は、大学の真の“崩壊”と呼ばれるものに対する抵抗でした。州都サンパウロ市の複数の道路を封鎖する抗議行動や、スト決行の脅迫等を受け、州知事は、9,57%に相当する下限額を上限額に移行するという文面を、法案から削除する変更を行いました。州政府からの交付金の問題はこれで解決され、現在は、三大学の教職員の給与調整の交渉が残されています。CRUESPは、調整率を7,21%とする案を出しましたが、教職員らは、要請する調整率を大幅に下回るとして受け入れませんでした。USPとUNICAMPの教職員組合側からは8,36%という妥協案が提示されましたが、CRUESPは却下しました。提示する率が異なるのは、給与調整の計算に別に指数が使用されたためです。合意が得られなかったことから、CRUESPは9月に交渉を改めて開始すると発表していますが、調整率に関する合意に未だ至っていないことから、ストが起きる可能性は依然として残っています。

リオ・デ・ジャネイロ州では、リオ・デ・ジャネイロ連邦大学(UFRJ)が、業務委託の形で雇用されている従業員への給料の支払遅延、経済的に困窮する学生を対象とした奨学金の拡充やその支払いの前倒しを要求する学生デモの舞台となりました。約200人の学生が、学長室を数日間占拠し、同大のジョアキン・レヴィ学長は、業務委託の形で雇用された従業員の(給与遅延)問題解決を支持する姿勢を表明しました。大学と契約を結ぶ企業が上記従業員への支払いを行わないことで、大学の清掃や警備に問題が起き、この出来事により、学長は支払いが行われるまで大学の授業を停止することを決定しました。この2日後、給料が上記企業により適切に支払われ、清掃や警備サービスが行われる保証を得たことで、授業が再開されました。

経済危機は、経営に割り当てられる公的資金に依存する国内の公立大学の経営状態に悪影響を及ぼしています。サンパウロ州の場合、ICMSの税収の一部が州立大学に交付され、大学の予算が漸進的に増加し、学部学科の拡充や生徒数の増加が可能となりました。各大学が、積立金を元手に経営を行っているにもかかわらず、前述のような拡充は、妥当な金額で、計画的で慎重な方法で行われたとはいえません。例えばUSPは、人件費の4,4%を削減するため希望退職制度を導入しました。にも関わらず、教職員の給与は、予算の100,8%に達すると予測されています。そのため、新規雇用が一切停止し、メンテナンスや改修のための工事も中断されています。教育・研究活動開始から80年目を迎える今年、USPは、10億レアルもの赤字を抱え込むと予想されており、予算の見直しにとどまらず、経営方式の変更が喫緊の課題となっています。

(サンパウロ海外アドバイザー)

地域 中南米
ブラジル
取組レベル 政府レベルでの取組
行政機関、組織の運営 予算・財政
その他 その他
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