【海外センターレポート・ブラジル】ブラジルの経済危機が高等教育に及ぼす影響について

現在の経済危機により、ブラジル国内の初等、中等、高等教育が深刻な悪影響を受けています。そのうちの一つは大学院課程の予算削減です。不況が深刻化するにつれて教育分野が影響を受ける範囲は拡大し、2016年には更なる予算削減が予想されます。2015年は、年初に承認された教育省(MEC)の予算(90億レアル余)の19%がカットされました。

この経済危機により、約60の国立高等教育機関で職員のよるストライキが起きています。ストが起きている機関の技術・管理部門は100日以上にわたり機能を停止しており、学生や教員への対応やサービスを縮小しています。特筆すべきは、このストの理由は経済危機だけではなく、これまで解決されてこなかった問題の結果として起きている、ということです。実際問題として、職員の訴えに応じることができないのは現在のブラジルの経済状況の直接的な結果であるにしても、ストは大勢の学生に影響を与えており、収束の見込みは未だに立っていません。

ブラジルの公立高等教育機関の技術・管理職員組合連合(Fasubra)によれば、今年年初に開始されたストは、2014年に起きた職員によるストの継続であり、昨年のストは連邦司法高等裁判所(STJ)が政府と職員の交渉期限を定めることで一旦収束しました。しかし、交渉は実現しなかったため、ストライキは再び開始され、過去数年にわたり調整されなかった分として、賃金の27,3%分にあたる金額の支払いを求めています。Fasubraによれば、複数の高等教育機関においては教員までもストに加わり、授業が行われていないという状況に教育省が懸念を示しているにもかかわらず、政府側からはスト収束に向けた正式な提案がなされていません。

また、ブラジルの学術研究活動において深刻な影響を受けているものとして、連邦政府の奨学金プログラム「国境なき科学(Ciencias Sem Fronteiras)」があります。本プログラムは2011年に開始され、ブラジル人学生が国外の大学で学部・大学院課程に在籍し、研究活動を行うための奨学金を提供するというもので、ブラジルにおける学術交流促進の主要な手段と考えられています。政府は国会に2016年の赤字予算を提出し、同プログラムに充てられた予算は、約20億レアルで維持されることが決定されました。しかし、その金額は、国外に既に滞在している学生への奨学金を賄うのには十分であるとしても、翌年からの新規の留学生の派遣を保証するものではありません。国家科学技術開発審議会は、既に公約されたことを実行することに焦点が置いていると説明しており、政府は既に7月の時点で、新たな留学生募集の公示のための期限は無い旨を言明しています。従って、プログラムは無期限で“凍結”されていることになります。

ブラジルの現在の状況は、教育部門にとって非常に困難なものです。レナト・ジャニニ・リベイロ現教育相は、高等教育を履修する若者の数を増やすことの必要性を訴えてはいるものの、予算削減についてのコメントを避け、低コストで実現可能な解決策の模索をしていると述べるにとどめています。現在の展望としては、2015年と2016年にかけ、前向きではないものも含めた更なる多様な変化が予想されます。

サンパウロ海外アドバイザー  二宮 正人

地域 中南米
ブラジル
取組レベル 政府レベルでの取組、大学等研究機関レベルでの取組
行政機関、組織の運営 予算・財政
国際交流 学生交流
レポート 海外センター