【国際協力員レポート・中国】就職と興味-中国の留学政策と留学生の志向-

中国は基礎科学の分野にも予算を出して実験室の充実も図っている。(松岡 2014)
However, only 5% of China’s R&D spending goes to basic research — a much lower proportion than that of other leading nations. Most of China’s R&D funding is aimed at commercially-related technology development.(しかし、中国の研究開発費のうちわずか5%しか基礎研究に投入されていない-他の主要国より比率は低い。中国の研究開発費の多くは商業関連の技術開発に向けられている。)(Van Noorden 2016)

 

両者はどちらも事実である。一見すると相反する意見のように聞こえるが、中国の研究開発費のうち基礎研究に向けられる比率は低いものの、研究開発費自体が大幅な伸びを示しているからだ。こうした表現が出てくる背景には、中国の科学技術政策は応用面を重視する傾向があるという印象が強いことを物語っている。筆者もそのような印象を持っており、世界最大の電波望遠鏡「天眼」の建設など、基礎科学にも予算が投入されているとはいえ、一部の限られた分野だと感じていた。
国外への留学生派遣に関する政策も同様で、高等教育の高度化と高度人材の養成のため、国家として優先度の高い専攻分野を中心として優秀な人材が海外に派遣されているという(王 2010)。たとえば「海亀政策」は海外に出て行った優秀な研究者を呼び戻すことが目的であり、実際に論文生産の拡大に寄与したとされるなど(上野ほか2006)、国外への留学が高度人材育成の一手段になっている(黒田 2011、辻野 2008、趙 n.d.)。中国の学術政策においては、実利的な方面を支援している印象が強いことは否めない。
本レポートでは特に中国の留学生派遣政策と中国人留学生の志向に焦点を当て、それらが本当に実利的なものを求める傾向があるのか、動向を探っていきたい。近年、中国から国外に行く留学生の数は増加傾向にある。日本に来る中国人学生も増えているとはいえ、中国から国外に行く留学生全体の日本への留学生が占める割合は年々低下している。中国側の動向を知ることで中国人留学生のうち日本に来る割合が低下している理由を探ることができると考える。
本レポートの構成としては第1章で本レポートの目的と全体の構成を述べ、第2章で中国の留学政策を概観する。第3章では日本と中国および留学先での専攻ごとの分布から学生の傾向の分析を行う。続く第4章では大学側および大学生側の対応として中国科学院大学の例を取り上げる。第5章では中国における就職状況について概観する。第6章では中国と日本の研究者の聞き語りから、日本の研究者が現在のキャリアに至った経緯に迫る。最後に第7章で全体のまとめを行う。
なお、報告書全文はこちらから閲覧可能。
【氏名】 内堀 大地
【所属】 京都大学
【派遣年度】 2017年度
【派遣先海外研究連絡センター】 北京研究連絡センター

地域 アジア・オセアニア
中国
取組レベル 政府レベルでの取組、大学等研究機関レベルでの取組
行政機関、組織の運営 政策・経営・行動計画・評価
国際交流 国際化
人材育成 若手研究者育成
統計、データ 統計・データ
レポート 国際協力員