【国際協力員レポート・ドイツ】ドイツの大学における研究環境とその支援

2004年、日本の国立大学が法人化されて以降、日本政府から大学へ配分される運営費交付金は大きく減少している。2004年度には1兆2,415億円だったものが毎年減少し続け、2015年度には1兆945億円となり、11年間で約12%が削減された 。2016年度になって前年度同額の1兆945億円に踏みとどまり、2017年度予算案は1兆970億円と13年ぶりに増額されることとなった 。しかしこの13年間の減額幅を鑑みるに、依然厳しい状態が続いていると言って差し支えないだろう。
日本の国立大学がこうした厳しい財政状況に置かれている中、研究費における競争的資金の重要性が年々高まっている 。文部科学省の競争的研究費改革に関する検討会による2015年6月24日の中間取りまとめ報告では、運営費交付金が減少している一方で、競争的資金の総額は増えていることが報告されている 。この報告によれば、2008年には4,854億円だった競争的資金は2013年には6,776億円と約40%(1,922億円)増加しており、運営費交付金が1兆1,813億円から1兆802億円と1,011億円減額されているのと対照的である。実際、同報告内でも国立大学等における研究費に占める外部資金の割合は年々増加していることを示すデータが掲載されている 。競争的資金の増額分と運営費交付金の減額分を相殺すれば、むしろ大学における研究者の研究費は増えているように一見思えるかもしれない。しかし、競争的資金とはその名のとおり公募により競争的に獲得される資金のことであり、つまり近年研究者は、運営費交付金の減少を背景に、より積極的に研究費を獲得しにいかなければならない状況にあるといえる。
一方で、研究者をとりまく実際の研究環境は快適とはいえないようである。科学技術・学術政策研究所による『日本の科学研究力の現状と課題』(2016年11月、バージョン4)では、職務時間を研究時間、教育時間、社会サービス時間、その他と合わせて100%とした場合、2013年における実際の研究時間割合は35.0%であり、これは理想の46.9%に及ばないばかりか、2002年における46.5%という回答から悪化している 。こうした厳しい状況にある研究者の研究環境の改善をはかるため、文部科学省は2012年度より「リサーチ・アドミニストレーター(URA)を育成・確保するシステムの整備」事業を開始し、研究マネジメントを担う人材をURAとして育成・定着させることで、研究者の業務負担を軽減させる取組みを実施してきた 。しかしこうした取り組みも、前述の報告によれば、少しずつ効果は現れてきているもののまだ十分であるとはいえないと指摘されている 。
基盤的経費に対する外部資金の割合の増加という点では、ドイツの大学にも同様の傾向が認められる 。本稿ではドイツの大学における研究支援のあり方の例について調査することで、日本の大学が今後研究環境改善のさらなる推進をはかる際の参考としたい。このため、2章ではドイツにおける研究開発費の流れとその資金額の推移について見ることで、ドイツの大学に対する主な外部資金の配分元である連邦研究教育省(BMBF)が年々その予算を増額し、かつ教授一人あたりの外部資金の割合も増えていることを確認する。また、ドイツにおける主な助成機関であるドイツ研究振興協会(DFG)と2007年より実施されている大規模な研究支援プログラムであるエクセレンス・イニシアティブ、そしてEUの助成機関である欧州研究会議(ERC)について概要を紹介することで、外部資金をとりまく現状を確認する。3章では、筆者がドイツの各大学(ドルトムント工科大学、ハノーファー大学、ケルン大学、ボン大学)およびスイスのバーゼル大学の研究支援担当者を訪問し研究支援の仕組みと内容に関する聞き取り調査を行った結果について述べる。4章では聞き取り調査の結果をふまえ、申請書チェック数や採択件数などの数値目標より研究者の満足度を重視する風潮や研究機関間で支援を共有するスイスの取組みについて考察する。

なお、報告書全文はこちらから閲覧可能。

【氏名】 西村 葵
【所属】 京都大学
【派遣年度】 2016年度
【派遣先海外研究連絡センター】 ボン研究連絡センター

地域 中東欧・ロシア、EU
ドイツ、その他の国・地域
取組レベル 国際機関レベルの取組、政府レベルでの取組、大学等研究機関レベルでの取組
行政機関、組織の運営 予算・財政
大学・研究機関の基本的役割 研究
人材育成 若手研究者育成
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