【国際協力員レポート・イギリス】英国の大学における教育の質保証-学生の声をより良い教育に繋げる仕組みに着目して-

英国では、1992年の、ポリテクニック及び高等教育カレッジを大学に昇格させる政策により、高等教育人口が飛躍的に増加した。これにより、もはや高等教育は一部のエリート層に無償で提供される閉ざされたものではなくなった。高等教育人口の増加は、政府の財政を圧迫する結果となり、1998年についに年間上限1,000ポンドの授業料徴収が始まるに至った。授業料の引き上げはその後も段階的に行われ、2012年には年間上限9,000ポンドまでの徴収が可能となり、値上げ傾向は現在も続いている。近年、大学関係者の間で、学生は高い授業料を払ってサービスを受ける‘Customer’であると皮肉的に表現されることも珍しくない。
2012年の授業料値上げに向けた準備段階である2011年に、高等教育白書「Students at the Heart of the System 」が発表された。これは、将来のイングランドにおける高等教育政策をまとめた白書であり、より良い学生経験の提供・優れた教育の提供・学生に対する雇用市場への十分な準備教育の提供、出願者へ向けた十分な情報提供・低所得家庭からの学生の公正なアクセスを加速するための資金措置などが政府の計画に盛り込まれた。この白書ではその名のとおり、高等教育の中心にいるのは学生であることが強調され、大学は学生のフィードバックに耳を傾け、彼らと協同していくことが求められている。つまり、授業料の引き上げに伴い、大学はその授業料に見合った、学生の求めるサービスを保証しなくてはならないということを示したのである。
上述の背景を踏まえ、英国では高等教育における質保証プロセスのあらゆる面において、学生の意見を積極的に取り入れる姿勢が見られる点に筆者は興味を持った。なお、Student Union(以下ユニオンと言う)という学生による自治組織が、学生の声を代弁し、大学に届けるのに大きな役割を果たしていることも分かった。筆者は本研修期間中、英国の大学がどのように学生の意見を取り入れ、より良い教育の提供に結び付けているのか、また、その上での問題点について、ユニオンや大学関係者に聞き取り調査を行った。本報告書では、英国の大学における教育の質保証システムのうち、重要な点について概略を述べた後、筆者が実際に現地の大学で行った聞き取り調査の結果を紹介したい。
なお、英国では大学に対する教育と研究の評価は分かれており、本報告書で取り扱う内容は基本的に教育に限定されることを事前に断っておく。また、大学教育及び質保証のシステムは、イングランド・ウェールズ・スコットランド・北アイルランドで共通する部分も多くあるものの、それぞれ異なっている。本報告書はイングランドの状況を踏まえて作成したものであり、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドには必ずしもあてはまらない場合があることをご承知置き願いたい。

なお、報告書全文はこちらから閲覧可能。

【氏名】 楠根 由美子
【所属】 九州大学
【派遣年度】 2016年度
【派遣先海外研究連絡センター】 ロンドン研究連絡センター

地域 西欧、EU
イギリス
取組レベル 政府レベルでの取組、大学等研究機関レベルでの取組
行政機関、組織の運営 予算・財政
大学・研究機関の基本的役割 質の保証、教育
国際交流 学生交流
学生の経済的支援 学費
人材育成 学生の多様性
レポート 国際協力員