【国際協力員レポート・イギリス】地域を「学びのフィールド」にすることで、学生と地域を結びつける英国の大学の取り組み例

【概要】

大学による地域貢献は、大学のあり方を考える上で重要な課題である。大学は地域に開かれ、地域とともにあるべきだという立場からすれば、大学が持つ人的資源である学生をキャンパス内に閉じ込めることなく、地域が抱えている問題の解決のために積極的に地域と関わらせることが重要である。

文部科学省では、平成27年度から、大学が地方公共団体や企業等と協働して、学生にとって魅力ある就職先の創出をするとともに、その地域が求める人材を養成するために必要な教育カリキュラムの改革を断行する大学の取組を支援することで、地方創生の中心となる「ひと」の地方への集積を目的として「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業」(COCプラス事業)を実施している。著者の所属大学である島根大学も同事業に採択され、学生にとって魅力ある就職先を創出するとともに、地域が求める人材を養成するために必要な教育カリキュラムの改革を推進しているところである。

本稿では、大学が持つ人的資源である学生を地域に関わらせる一手段として、ボランティア及びインターンシップにおける英国の大学の取り組みを調査し、考察を深めるものである。

英国の大学でボランティア及びインターンシップがどのように導入されてきたか、以下で簡単に触れる。

 

英国の大学におけるボランティア導入の経緯

まずはじめに、用語の定義を整理しておきたい。本稿で扱うボランティアとは、「自分の意志で奉仕活動や社会活動を行う人、又はその活動そのもの」である。

英国はチャリティやボランティアという慈善活動が盛んな国であり、街中に多くのチャリティショップを見かける。実際、社会福祉の歴史の中で、初めて組織的なボランティア活動が行なわれたのは19世紀の英国である。当時、ヨーロッパでは貧困者に対する国家政策は十分に行なわれていなかった。そこで、キリスト教信者による救済活動や、有識者が貧困者とともに暮らしながら感化・教育活動を行うセツルメント活動などが始まり、ボランティア活動へと発展していった。

近年では、少年が現実の地域社会の諸問題に実際にかかわり、他者のために活動することを通して、考え方や学び方、知識、技術、性向を身につけていくボランティア学習を、「市民教育」(Citizenship Education)という呼び方で推進しており、2002年から社会への積極的な参加と責任を促す「市民教育」を中等学校で必修化した。

このように、ボランティア活動の土壌が整っている英国だが、それでは、大学ではボランティア活動をどのように取り入れていったのであろうか。

英国の高等教育の問題点を分析したDearing Report(1997年)では、知識社会である21世紀に英国の経済的な競争力を高めるために、国民の資質向上を目指し、高等教育への参加率を50パーセントまで高めるとともに、従来は高等教育機関に進学しなかった(進学できなかった)階層からの進学者を増加させる政策を重点政策として打ち出した。この政策は「高等教育参加者の拡大政策(Widening Participation)」と呼ばれている。これにより、高等教育の拡大化・大衆化は進んだが、その一方で、進学動機があいまいで勉学に励まず、学力が不十分な学生が増加した。そのため、大学は学生の学習意欲の向上に関心を向けざるを得ず、学習技能の指導や、学生の学習意欲を高める参画型学習(Active Learning)としてボランティア活動等を取り入れた。

 

英国の大学におけるインターンシップ導入の経緯

ボランティアと同様、まずは用語の定義から入る。本稿で扱うインターンシップとは、「大学生などが在学期間中に企業などで就業体験をすること」であり、これと同義のものについて、英国では「ワークプレイスメント」と呼ばれるが、本稿では、我々日本人になじみのあるインターンシップという用語を用いることとしたい。

英国の大学でインターンシップが行われるようになった背景として、大学を卒業しても就職できない学生が増加したことや就職と学問が分離してきたことなど、大学教育と就職の結びつきを強める必要ができたことが挙げられる。当初は、約1年間という長期に渡るプログラムであったが、現在のような、数週間から数ヶ月の比較的期間の短いプログラムが行われるようになったのは、前述のDearing Report(1997年)の勧告に依るところが大きい。この勧告では、英国の国際競争力の低下を背景に、大学と産業界との連携を強化する方策を打ち出した。具体的には、大学に対して「すべての高等教育機関が学期中に学生が就労体験を行い、その体験を反映させることができるようなプログラムを拡充する」ように勧告した。すなわち、現在、英国の大学で行われているインターンシップは、学生側の利益だけではなく、産業側の実質的利益も重要なものである、と言える。

ボランティア及びインターンシップにおける英国の大学の取り組みに関して、次章で調査方法について、第3章で調査結果についてそれぞれ掲載する。

なお、報告書全文はこちらから閲覧可能。

【氏名】 岡田 高文
【所属】 島根大学
【派遣年度】 2015年度
【派遣先海外研究連絡センター】 ロンドン研究連絡センター

地域 西欧
イギリス
取組レベル 大学等研究機関レベルでの取組
行政機関、組織の運営 政策・経営・行動計画・評価
大学・研究機関の基本的役割 教育
社会との交流、産学官連携 社会貢献
レポート 国際協力員