【ニュース・スウェーデン】カロリンスカ医科大学、酵素研究からうつ病のメカニズムを解明

うつ病は精神疾患の代表的なものであり、先進国において最も蔓延している病気である。先日、カロリンスカ医科大学(KI:Karolinska Institutet)の研究者が、うつ病の進行と胎児の脳に潜む酵素の関連性を発見した。
世界の人口の4%以上の人がうつ病に苦しんでおり、スウェーデンでは毎年約1,500人が自ら命を絶っている。しかし、病態心理学分野におけるうつ病の解明は進んでおらず、近年はうつ病のメカニズムに関する新しい発見もわずかである。うつ病をテーマとした研究が熱心に行われているにも関わらず、新たに承認された薬理学的アプローチはほとんどない。カロリンスカ医科大学の研究者は、うつ病におけるCYP2C19と呼ばれる酵素の役割と、脳の中でその機能と形態がどのように変化するのかを解明した。CYP2C19は胎児の脳や大人の肝臓に存在し、抗うつ病薬を含む多くの向神経活性剤の代謝に作用する酵素である。
「我々は、以前からCYP2C19遺伝子は肝臓だけでなく、胎児の脳内にも現れることを確認していた。胎児の段階で人間のCYP2C19が過剰発現するよう遺伝子組み換えされたマウスは、野生のマウスに比べて、成長後の海馬がより小さく、海馬の神経細胞が変質し、重度の不安症と憂うつ感に苛まれているような行動を取ると証明された。」と、研究リーダーの Magnus Ingelman-Sundberg 教授は話す。
海馬は脳の中心部にあり、感情のコントロールやストレス制御を司っている。CYP2C19の過剰発現が海馬の機能と構造を変化させるという発見は新たな研究の第一歩となる。研究者らは現在、今回のマウスの実験でわかったことがどの程度人間にも当てはまるかを明らかにするための研究に乗り出している。
人類の30%で体内のCYP2C19酵素が増加しているにもかかわらず、人類の4%はCYP2C19酵素を持っていないという事実からこのような分析は始まった。MRIによる海馬の体積の測定や自殺に関する疫学的な統計分析、うつ症状を発症している人を対象とした膨大なテストデータの分析などにより、CYP2C19酵素が欠如している人ほど、海馬がより大きいという関係性が認められた。 
Magnus Ingelman-Sundberg 教授の共同研究者である Marin Jukic 研究員は、「海馬が大きい人はうつの度合いが軽いことがわかった。したがって、我々はうつ病患者のCYP2C19が活性化されると、自殺の危険性が高まることを突き止めた。」と述べる。
「このような発見がうつの表現型の新しいバイオマーカー*を突き止めるための基礎となり、マウスを使った我々の研究結果が、うつの原理及び、特にセロトニン系神経伝達に作用する新うつ病治療薬の臨床前審査における新しいメカニズムの理解に役立つことが裏付けられた。」と Magnus Ingelman-Sundberg 教授は締めくくった。

 

* バイオマーカー
生体内の生物学的変化を定量的に把握するため、生体情報を数値化・定量化した指標。(公益社団法人日本薬学会 薬学用語解説より)

 

【出典】
Karolinska Institutet:Enzyme research provides a new picture of depression

地域 北欧・バルト三国
スウェーデン
取組レベル 大学等研究機関レベルでの取組
大学・研究機関の基本的役割 研究