【ニュース・イギリス】6月23日のEU離脱に関する国民投票結果を受けての各機関、メディアの反応

(1)王立協会(The Royal Society)

 

英国のEU離脱という決定を受けて、Venki Ramakrishnan王立協会会長は、次のように述べた。“これまで、英国の科学はEUの助成金に支えられてきた。これは英国の研究助成金を補う不可欠のものであり、我々は今後の交渉において、英国経済の基盤である研究が不当に扱われることのないよう、政府が研究助成金の全体規模を維持するよう求めていかねばならない。

 

英国の研究の強さの秘訣の一つは、常に国際的な状態にあったことであり、引き続き外国からの研究者や学生を歓迎していくことが重要である。EUを含む国際コミュニティとの間で人材やアイディアの自由な交流が維持できなくなると、英国の科学は非常に大きなダメージを受けることになる。

 

多くの世界的課題は、諸外国が連携して取り組むことによってのみ解決されうるが、そのためには政策や規制が一致していることが重要である。EUとの新しい関係作りのための交渉においては、そうした連携を阻害する不必要な障壁を作ることのないようにしていかなければならない。”

 

THE ROYAL SOCIETY:The Royal Society comments on EU referendum

 

 

(2)英国大学協会(Universities UK)

 

Julia Goodfellow英国大学協会会長は、次のように述べた。“EU離脱は英国の大学に大きな試練をもたらすことになる。これは我々が望んだ結果ではないが、英国の有権者の決定を尊重する。EU離脱は一晩で起こるものではなく、離脱に向かうプロセスの中で保証を求め、将来の政策に影響を与える機会はある。この移行過程において、我々は、英国の大学が引き続き、国際的な、欧州各地の優秀な人材を惹きつける魅力的な場所であり続けられるような支援を求めていく。

 

最優先課題は、EU諸国から来ている職員と学生が英国の大学での活動を長期にわたり続けられるよう保証することを政府に求めていくことである。彼らは、大学の研究・教育に力強い貢献をし、英国の経済社会にプラスの影響を与えてくれる。また、研究者や学生にとって不可欠な欧州のプログラムに参画し、新たな世界的ネットワークを作る機会を確保することにも力を入れていく。”

 

Universities UK:Universities UK statement on the outcome of the EU referendum

 

 

(3)ラッセルグループ(Russell Group(英国トップレベル研究大学連合))

 

Wendy Piattラッセルグループ事務局長は、次のように述べた。“EU離脱は、我々トップレベル大学に非常に不安定な状態をもたらすが、この決定による混乱を最小限にとどめられるよう、政府と連携していく。EUからの研究助成金の重要性は認められており、我々は、政府がこれに代わる助成を長期にわたり保証するよう求めていく。

 

英国はまだEUを離脱したわけではない。重要なことは、他のEU加盟国から来ているスタッフや学生が、この決定が学内での彼らの立場に直ちに影響を与えるものではないということを理解することである。一方で、我々は、英国のEU離脱にかかる交渉後も、彼らが確実に仕事や学習を続けられるよう、政府に求めていく。

 

ラッセルグループ大学の成功において、EU内での優秀な人材の自由な交流、ネットワーク、連携、大規模な研究活動及びEUからの研究助成金が果たしてきた役割は大きい。今後の交渉において、欧州各地との生産的な連携が続けられるよう、大学にとって最良の条件を確保すべく政府と緊密に連携していきたい。”

 

Russell Group:EU Referendum Result

 

 

(4)タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(Times Higher Education)

 

EU離脱の投票結果を受け、英国の大学は、将来の研究助成金、学生授業料、EU諸国からの職員の雇用に関し、不安定な状態に直面している。

 

EUからの完全離脱は数年後とはいえ、英国の高等教育機関に衝撃を与えている。

 

英国大学協会、ラッセルグループ大学がそれぞれコメントを発表した(前述のとおり)ほか、ミリオンプラスグループ議長でロンドン・サウスバンク大学学長であるDave Phoenix氏は、政府大臣に、高等教育・研究法案の延期を考慮するよう求め、次のように述べた。“大臣は高等教育・研究法案及び、ビジネス・イノベーション・技能省(BIS:Department for the Business Innovation Skills)の高等教育白書にある提案を推進するメリットについて、時間を取ってしっかりと考えるべきである。法案は、英国全体に関係し、高等教育と研究の構造に変化をもたらす。また、政府は留学生を移民の網から外し、大学院での研究のための新たなルートを導入することともに、研究助成金を増額し、助成期間中、大学が確実にその活動を続けられるようにして、世界市場において遅れを取ることがないようにすべきである。

 

また、科学と工学のためのキャンペーンの代表であるSarah Main氏は、“この結果は我々の部門に大きな試練をもたらす。科学は、英国がEUとの関係によって特に利益をもたらされていた分野である。研究者が、英国の負担額を超える何十億ポンド(2007~2013年間で£88億)の研究費を獲得していたからというだけでなく、EU内で人々が自由に移動できることで、研究者の移動、連携、欧州内で最良のアイディアの共有が容易にでき、英国の企業や大学が欧州の優秀な人材を受け入れやすくなっていた。”と述べた。

 

Times Higher Education:Brexit vote sparks huge uncertainty for UK universities

 

 

(5) Nature誌

 

【EU離脱を受けてよろめく研究者】

 

6月24日、最も研究者が望んでいなかった結果が出た。英国のEU離脱という投票結果は、政治的・経済的に不安定な状態を巻き起こすとともに、将来の研究資金や研究協力、主なEUの研究プログラムへの英国の参加の可否、何千人もの研究者の交流や雇用状態について研究者に不安を残した。

 

“英国の多くの研究者は前日の投票結果―52%の人々がEU離脱に投票、48%が反対―に衝撃と遺憾の意を示した。英国の科学界にとっても英国全体にとってもよくない結果である。”と、フランシス・クリック研究所所長で、遺伝学でのノーベル賞受賞者であるPaul Nurse卿は述べた。“英国の科学を発展させ続けるのであれば、英国の研究者は将来、EU離脱による孤立と立ち向かい、より懸命に働かねばならない。”

 

英国のEU離脱に関する交渉の厄介で長期にわたる過程において、科学がどのように影響を受けるかは明らかにされていない。投票前の政治家のEU離脱キャンペーンでは、大学や研究者が損をすることはないと保証していたが、研究者の直近の懸念は、研究費である。英国の大学は現在、研究費の16%、職員の15%がEUから来ている。

 

ジェノバ(スイス)で大型ハドロン衝突型加速器を用いたATLAS実験に参画している、ユニバーシティー・カレッジ・ロンドンの物理学者Jonathan Butterworth氏は、“非常に厳しいことになる。欧州の他地域から英国の大学に来ている学生やポスドクのために、EUからの研究や教育のファンディングは保証されるという強い表明が必要である。”と述べた。

 

【参加権の喪失】

 

研究者は、英国がEU離脱により、研究補助金のホライズン2020を含むブロック研究プログラムに参画する権利を失うことを恐れている。英国は現在、欧州研究会議(European Research Council)の補助金を受けている研究者を、他のどの国よりも多く抱えている。
EUから外れることで、英国が自動的にEUの研究プログラムから外されることにはならない。例えば、ホライズン2020は、EU加盟国以外の15ヶ国も連盟協定により財政負担をすることで、EU加盟国と同様に参画する権利を得ている。しかし、人々の自由な移動が制限された場合には、前述の協定に基づくメンバーシップは、英国には適用されないかもしれない。

 

投票前のデジタル・サイエンス(ホルツプリンク・パブリッシング・グループによるロンドンのコンサルタント会社)の試算によると、もし政府がEU関連の研究費の不足分を埋めなければ、英国は毎年£1億の研究費を失うことになる。

 

Nature:Researchers reeling as UK votes to leave EU

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