【ニュース・イギリス】高等教育部門:メイ新政権下では“教育省”に所管替え

7月13、14日にかけて新内閣の閣僚が発表された。これに伴い、ビジネス・イノベーション・技能省(BIS: Department of Business, Innovation and Skills)とエネルギー・気候変動省(DECC: Department of Energy, Climate Change) が合併され、ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS: Department of Business, Energy and Industrial Strategy)となる。また、高等教育部門は教育省(DfE: Department for Education)に移管され、科学・研究はBEISの所管となる。

 

 

【ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)】

 

新大臣:Greg Clark

 

ケンブリッジ大学、モードリンカレッジにて経済学を学び、卒業後ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスでPhDを取得した。2005年の総選挙でTunbridge Well地区選出議員として初当選。2008年から2010年まで影のエネルギー・気候変動担当大臣、2010年から2012年まで地域社会・自治閣外大臣、2012年から2013年まで財務省金融大臣、2013年から2014年まで都市及び憲法担当大臣、2014年から2015年まで大学・科学・都市担当大臣を務め、前職は2015年5月から2016年7月まで地域社会・自治大臣であった。

 

GOV.UK:The Rt Hon Greg Clark MP

 

 

【教育省(DfE)】

 

新大臣:Justine Greening

 

サウサンプトン大学で経済学を専攻、卒業後ロンドンビジネススクールにてMBAを取得。2005年にRotherham地区選出議員として初当選する前までプライスウォーターハウスクーパーなどで経理マネージャーとして勤務していた。2007年に影の財務相に就任し、2009年には影のロンドン大臣に就任した。
政府が与党になった2010年から2011年まで財務省の経済大臣、2011年から2012年まで運輸大臣、2012年9月から2016年7月まで国際開発大臣を務めた。

 

GOV.UK:The Rt Hon Justine Greening MP

 

 

【メディアの報道】

 

7月14日、Times Higher Educationは、高等教育部門が、ビジネス・イノベーション・技能省(BIS: Department of Business, Innovation and Skils)から教育省(Department of Education (DfE)に移管されたと報じた。

 

新しくできるビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS: Department for Business, Energy and Industrial Strategy)の大臣には、Greg Clark氏が就任し、BEISが研究予算£46億を所管することになる。Clark大臣は就任に当たり、“包括的な産業戦略の遂行、産業界との連携、世界クラスの研究の促進、手頃な価格のクリーンエネルギーの実現、気候変動問題への取組みを所管する新しい省の大臣に任命され、嬉しく思っている。”と述べた。

 

一方、新教育大臣は、Justine Greening氏。高等教育部門のDfEへの移管は、技術と教育については、若年時から大学院での学習や仕事までを総合的に見て提供するという観点から行われる。

 

BISは、2009年にイノベーション・大学・技能省(DIUS: Department for Innovation, Universities and Skills)とビジネス・企業・規制改革省(BERR: Business, Enterprise and Regulatory Reform)が統合して設置されたが、Michael Gove前教育大臣は、高等教育部門をBISからDfEに戻すべきだと常々主張していた。 しかし、副長官は、DfEへの移管は巨額の予算を持つ省を作ることになり、その場合、大学への予算削減は、(初等中等教育の)学校への予算削減より政治的に受け入れられやすいということを恐れていた。

 

University of Winchesterの教授であるJohn Denham氏は、2007年 のDIUS設立時の労働大臣であり、高等教育と研究の部門を所管していた。Denham 氏は“高等教育部門をビジネス省に移管したのは成功だった。それにより、大学の研究・教育両面への投資に対して政府内でより大きなウェイトを置くことができた。なぜならビジネス省はイノベーション、生産力、高い技術を持った労働力の開発のために極めて重要であり、大学や研究は政府の達成目標の中核と見なされていたからである。”と述べた。

 

さらに、今回の教育省への移管について、“大学にとっては、政府への影響力がなくなる可能性があり、危険である。実際に助成金の扱いがどうなるかにもよるが、少なくとも財源の一部は学校との間で競うことになる。もし研究費が産業省に残され、教育方針は別の省で決めることになると、大学が常に研究と教育のバランスを取りながらビジネスと知識交換に携わっている唯一の機関であるということが理解されていないという問題に戻る。更に、メイ首相の留学生の数を減らすことで移民の数を削減しようという政策を進めやすくする可能性がある。もし、大学は教育部門の一部だから、と押しやってしまうのであれば、そして、政府に対する影響力がなくなり、イノベーションや生産力の中核とも見なされなくなれば、厳しい留学生規制に立ち向かうことは難しいかもしれない。”と述べた。

 

DfEとBEISは、来週審議予定の高等教育・研究法案という重大な案件を抱えている。これは学生局という新しい規制部門と英国の研究全体を見るUKリサーチ・イノベーションという新組織を設置する法案である。

 

Times Higher Education:Higher education moved to DfE by Theresa May

 

 

【関係機関の反応】

 

ラッセルグループ(Russell Group(英国トップレベル研究大学連合))

 

7月14日、ラッセルグループのWendy Piatt 理事長は新内閣に関してコメントを発表した。

 

“Justine Greening氏が今後高等教育を所管する教育大臣(Secretary of State for Education)に、Greg Clark氏が研究を所管するビジネス・エネルギー・産業戦略大臣(Secretary of State for Business, Energy and Industrial Strategy)に就任されたことをお喜び申し上げる。

 

大学の所管が教育省に移されるのは大きな変化であり、我々は今後の動向を注意深く見守っていかなければならない。そして、大学が最先端の研究や優れた教育を行うのに十分な助成や支援が得られるよう、引き続き政府と緊密に協力していく。

 

教育と技術政策が一緒になることは、恵まれない環境の学生が大学で学ぶ機会を増やす上で役立つと理解しているが、科学研究は大学の基盤であり、研究が教育に生かされ、また、教育が研究に生かされるべきということが大学の主要な目的でもある。そのため、Greening氏、Clark氏には緊密に連携を取りながら業務に当たっていただきたい。

 

今は国にとっても過渡期であり、我々の大学が世界のトップ大学と競い合えるまでに大きな困難が待ち受けている。ラッセルグループの大学は、英国の経済成長や生活に大きく貢献しており、年間£320億以上の経済効果と30万人以上の雇用を生み出している。英国の高等教育制度は世界でもトップクラスであり、研究大学は経済成長と繁栄にとって不可欠である。我々は、研究や高等教育における世界のリーダーとしての地位を維持できるように、新大臣と協力していきたい。”

 

Russell Group:New Government

 

 

英国大学協会(Universities UK)

 

7月15日、Julia Goodfellow英国大学協会会長は、新内閣において、教育省が高等教育を所管することについてコメントを発表した。

 

“高等教育・技術部門が教育省に移管されることは、初等中等教育の学校と大学や職業技術を効果的にリンクさせるという意味でメリットがある。しかし、我々は、科学と研究がこの新組織の中でどのようにリンクさせられるのかを知る必要がある。教育、研究及び地元との連携は大学が何をするかの中核であり、そのことが省の体制においても理解されることが重要である。

 

高等教育部門は、英国の国際面で最も成功している部門であり、£100億を超える輸出収入をもたらしている。国際連携を増やし、諸外国からの優秀な学生やスタッフを惹きつけることが、政府全体としても高等教育部門としても必要かつ最優先事項である。”

 

Universities UK:Universities UK response to government changes

 

 

◆Jo Johnson氏、大学・科学担当閣外大臣に再任。

 

7月15日、Jo Johnson 氏が大学・科学担当相として再任された。

 

これまでビジネス・イノベーション・技能省(BIS: Department of Business, Innovation and Skills)の単独所管であった大学・科学政策は2つの省に分割され、高等教育については教育省(DfE: Department for Education)が、研究についてはビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS: Department of Business, Energy and Industrial Strategy)が所管することになった。Jo Johnson 氏は、両省の閣外大臣として大学・科学を担当する。

 

GOV.UK:Further new ministerial appointments announced on 15 July 2016

 

<Jo Johnson氏 の略歴>
1971年生まれの保守党所属議員。オックスフォード大学Balliol Collegeで現代史を専攻、卒業後、欧州の2つの大学にてそれぞれ学位を取得。ドイツ銀行勤務を経て、1997年に大手経済紙Financial Times社に入社。パリやニューデリーの特派員を経て、2008年同紙の最重要コラムのひとつである、The Lex Column責任編集者を務める。2010年より大ロンドンBromley区のOrpington地区選出議員。2012年9月より与党院内幹事補(Assistant Government Whip)、2013年4月より内閣府政務官 (Parliamentary Secretary at the Cabinet Office)を兼任、また、首相官邸政策室長(head of the Policy Unit in the Prime Minister’s Office)を勤めた。2015年5月からビジネス・イノベーション・技能省(BIS: Department of Business, Innovation and Skills)の大学・科学担当閣外大臣。兄は現外務大臣のBoris Johnson氏。

 

GOV.UK:Minister of State for Universities and Science

 

 

○新閣僚一覧
GOV.UK:Full list of new ministerial and government appointments: July 2016

 

○Times Higher Education記事
Times Higher Education:Jo Johnson reappointed as universities and science minister

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イギリス
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