2017年6月21日、イングランド高等教育財政会議(HEFCE:Higher Education Funding Council for England)は教育評価制度(TEF:Teaching Excellence Framework)2年目の結果を発表をした。
調査結果は2018年秋入学予定の学生の進路選択の指標となり、また英国内での優れた教育、学習を奨励するものである。
TEFは英国内の世界トップクラスの高等教育機関の実績を明確に示すために政府により導入されたもので、教授と学習の成果の分析結果により、既存の研究評価制度を補足するものである。
合計295の大学、カレッジやその他教育機関が任意に参加し、参加機関は「金」「銀」「銅」「条件つき(データが不十分である)」の4つで評価され、金は59機関、銀は116機関、銅が56機関であった。条件つきを除くと金は全体の26%、銀は50%、銅は24%を占めた。
評価者は学術会からを含む専門家、学生や雇用者の代表により構成される。国から提供されたデータ、各機関から提供されたデータを元に、教授の質、学習環境、学生の学習の成果の3分野について評価を行った。
Higher Education Funding Council for England:New assessment highlights excellence of teaching and learning across UK universities and colleges
【各機関やメディアの反応】(2017年6月22日付)
○Times Higher Education
世界的にも有名な英国高等教育機関であるThe London School of Economics(LSE)やUniversity of SouthamptonがTEFで銅の評価を受けた。また、研究主体の大学で構成され、Russell GroupのメンバーであるUniversity of Liverpoolは一番低いランキングであった。
その他有名大学で銅と評価されたところはUniversity of Londonの傘下であるSOAS(School of Oriental and African Studies), Goldsmiths、又医学部として評価の高いSt. Georgeであった。又ロンドンに位置する25大学のうち12大学が銅であった。
Times Higher Educationの世界ランキング(2016~2017)では5位であったLSEは低い評価を受け、London Metropolitan University, University of East Londonと同位になったことでTEFの評価方法(卒業生の進路、学生満足度、卒業率、15ページにも及ぶ申告書など)について今後議論を起こすことになろう。
最終的に137の高等教育機関のうちの3分の1が金の評価を受けた。ケンブリッジ大学、オックスフォード大学やラッセルグループの6大学(Birmingham, Exeter, Leeds, Nottingham, Imperial College London , Newcastle)なども含まれている。ラッセルグループの21大学のうち48%である10大学(Leeds, Nottingham, Imperial College London and Newcastle University)は銀と評価された。これは、ノミネートした全ての大学の49%が銀の評価を受けたのとほぼ同じ割合である。
しかし伝統的にランキングの常連でないいくつかの大学が金の評価を受けた。Bangor, Derby, Northampton, Coventry, Portsmouth等1992年以降に設立された新大学がWarwick (銀), Southampton (銅)などの伝統大学を差し置いて金の評価であった。
Times Higher Education:TEF:LSE, Southampton and Liverpool get bronze
○BBC News
TEFは学生の大学選考の際の指標となることを目的として行われているが、銅と評価された多くの大学はこの評価方式は不平等で信用ならないと非難している。各機関がTEFに参加するかは任意であるが、銅以上を獲得した機関はインフレの上昇率に合わせ2018~2019学事年度の学費の値上げが可能となる。
評価は実際に講義や教育内容を視察したデータは含まれておらず、施設、学生の満足度、退学率、就職先や卒業後の更なる学習の状況などを元に行われる。
14の生涯教育機関で学位を発行している機関が優秀大学とともに金を獲得した。
出願資格や学部など機関ごとの差異については、審査委員会により考慮された。審査委員は27人の学術関係者、学生、雇用者、専門家、など幅広い分野からのパネルで構成された。
「金」とは英国内で最高の教育の質の大学で、「学生に最高の教育と学習の成果を提供している」と評価されるものである。「銀」は「英国高等教育が要求する厳格な標準以上を提供している」と評価されるもので、「銅」は「国内水準に達している」と評価されるものである。
HEFCEは、学生が大学を選ぶ際に心がけている点に考慮した以下の点を評価基準にしていると述べている。
- 高い質の教育を提供しているか
- 協力的で刺激的な学習環境であるか
- 自身の可能性を引き出すために必要な知識とスキルを備えているか
- 将来の就職先もしくは更なる研究に繋がる機会が提供されているか
HEFCEの会長であるMadeleine Atkins氏は「学生は高等教育を受けるために莫大な時間と資金を投資しており、質の高い教育環境とアウトカムを当然期待する。」と述べた。
TEFの評価委員会の議長を務めたChris Husbands教授は「TEFは、他の情報とともに明確でわかり易い評価として利用されることを望んでいる。」と語った。又全体評価は銅と低かったが、様々な要素の中で優秀と評価されるものがあったことを強調した。
高等教育政策研究所(HEPI:Higher Education Policy Institute)のNick Hillman理事長は「驚くような結果が出たが、TEFはその目的を果たしているようである。もしTEFが以前の評価をただ複製したに過ぎないのであれば失敗していたであろう。他のランキングとは異なるように設計されており、今まで無視されてきた優秀な機関を見出し、又改善が必要なところに目を向けるものである。」と述べた。しかしながら「教室で実際に行なわれていることを正確に反映しているわけではないことを学生は念頭においておくべきだ。」と付け加え、釘を指した。また、「大学進学希望者はこの結果を進路決定として利用する際に、あくまでも個々の学部ではなく大学全体の評価であること肝に銘じてほしい。」とも述べている。
また銅の評価を受けたUniversity of Southamptonの学長であるChristopher Snowdon卿は「TEFに対して信用を持つことが難しい。透明性の欠如、機関によって基準が異なり、公平公正な評価がされていないと懸念しているのは私だけではない。我々の学生満足度や教育満足度は、今回金や銀を獲得した大学より勝っている。」と述べ、評価に対して抗議する事を考えている。
SOASのDeborah Johnson氏は「TEFは我々の活動を正確に反映していない。」と懸念している。「明らかにロンドンという場所が影響しており、ロンドンにある大学は、3大学に1大学の割合で銅の評価を受けた一方、ロンドン以外の大学は8大学に1大学の割合で銅という傾向となっている。つまりこの評価基準はロンドンにある大学に当てはまらない。例えばロンドンの高い生活費が原因による大学中退などがある。」と語った。
University of Liverpoolは声明で「銅という結果は非常に残念であるが、TEFは質を測る絶対的なものではない。広く知られている他の世界ランクでは我々は常に200位以内にランキングしている。」と述べた。とはいうものの、「我々はTEFで使われている内容に対して改善するため最善の努力をする。」とも語った。
BBC News:Leading universities rated ‘bronze’ under new ranking system
○英国大学協会(UUK:Universities UK)/Dame Julia Goodfellow理事長(兼ケント大学学長)
英国の大学は世界的にも質の高い教育と学習機会が担保されていると広く認識されている。また、クオリティコードとして設定されているハイレベルなアカデミックスタンダードを満たすことを要求されている。
新しいTEFの評価は公式に発表されている多くのデータに基づいて決定されており、学生にとって他の情報とともに選択の助けになるものである。
今回のTEFは試験的であり自主参加によるものであった。データ使用は的確で、範囲が広く、かつ大学機関内の多様性も考慮されていることが重要である。今後この評価制度を学生の大学選択の際に役立つ情報に更に開発していくことが重要である。
TEFの手法は一応完成したことになるが、2019年のレビューによりTEFは学生に役立っているか、その目的が果たされているかどうかの評価が下される。
Universities UK:Universities UK response to the Teaching Excellence Framework results
○ラッセルグループ(Russell Group)
TEFは学生が大学や専攻を決定する際に手助けとなる新しい情報源として開発された。しかしここで3つほど知っておきたいことがある。
1. | 今回の調査はトライアルの段階のものであり、すでにレビューを行うことが発表されている。 政府はすでにTEFの評価手法の向上のためにレビューを実施することを発表している。現時点では全国学生満足度調査(NSS:National Student Survey)が評価の対象となっているが、この結果は大学が提供している教育の真の姿を反映しているのか疑問を持つ者もいる。 |
2. | TEFは大学の質を測る完璧なものではない。 今回高評価を得た大学は現在の学生数を反映することで勝ち得たものである。どこかのポイントでトップのスコアだからといってTEFで高い評価を得られたわけではない。非常に低い退学率の大学よりも、卒業率が高い大学の方が優位に加算されるように評価手法が設計されている。肯定的な変化を認めることはよいことであり、喜ぶべきであるが、TEFの評価手法は決して期待しているほど各大学の本当の教育実態を表していないという点に注意してほしい。 |
3. | TEFは多くの情報の中の1つでしかない。 今回はまだ試験的な実施であり、すべての大学が参加したわけではないので、ほかの情報も参考にすることを薦める。UCAS(Universities and Colleges Admissions Service:大学入試機関)や他の機関の情報で大学生活について提供しているものも参考にするとよい。 |
Russell Group:TEF:3 things you need to know