2014年10月10日、EUAは、2014年版の大学への公的助成に関する報告書を発表した。この報告書は、2008年のリーマンショックから今日に至るまでの6年間のヨーロッパ全土を取り巻く緊縮財政の中で、各国の大学への公的助成がどのような変遷を遂げたのかを明らかにするものである。
報告書の主なポイントは以下の通り。
・東・南欧は西・北欧と比較して経済不況の影響を直接受けやすい状況にある(下表参照)。
・近年の助成削減の傾向を鑑みると、大学における設備投資の重要性は益々高まっていくと考えられる。もしこの問題が解決されないとなると、老朽化した設備を維持するための費用は大学の予算に悪しき影響を及ぼすことは必至であり、結果的には学生の研究環境や大学としての魅力も著しい低下を招くことになるだろう。
・自国からの公的助成の削減を新規EU計画に基づく、’Horizon2020’などの欧州助成で補填しようという考え方もあるが、公的助成削減はこれらの競争的助成金獲得にも悪影響を及ぼすと見られる(とりわけ、設備が既に整っていること等が条件とされるものなど)。したがって、欧州助成計画の財政と事務手続きに関するルールを単純化することが欧州政策・方針の最優先課題となるであろう。また、研究とイノベーションに関する予算の削減を強く訴えている国もあり、こうした姿勢の不一致は由々しき問題である。
結論として、EUAは各国政府が高等教育を「金食い虫」ではなく、「金のなる木」、つまりはヨーロッパの将来のための「投資」対象としてとらえるべきであることを再確認している。高等教育と研究への予算を増加し、現在の、そして未来の若い才能を育てることは、ヨーロッパ全土が経済不況から脱出し、将来の繁栄を促す「必須条件」である。
表 2008年から2014年にかけての公的助成の変化
2008年から2014年にかけての変化の割合 | 国名 | |
インフレ率を含めた場合 (2014年暫定率での計算) | 純粋な金額の増減 (インフレ率を含めない計算) | |
40%以上増額 | アイスランド | |
20%~40%の増額 | ドイツ※1、ノルウェー、スウェーデン | オーストリア、ベルギー(ワロン地域)、ドイツ※1、ノルウェー、ポーランド、セルビア、スウェーデン |
10%~20%の増額 | オーストリア、ベルギー(ワロン地域) | ベルギー(フランデレン地域)※1、オランダ |
5%~10%の増額 | ポーランド | クロアチア、ポルトガル |
5%増額~5%減額 | ベルギー(フランデレン地域)※1、アイスランド、オランダ、ポルトガル | スロベニア、スロバキア |
5%~10%の減額 | クロアチア、スロベニア | チェコ共和国、スペイン |
10%~20%の減額 | チェコ共和国、セルビア※2、スロバキア、スペイン | イタリア |
20%~40%の減額 | アイルランド、イタリア、リトアニア、英国 | ハンガリー、アイルランド、リトアニア、英国 |
40%以上減額 | ギリシャ、ハンガリー | ギリシャ |
※1 2014年データ入手不可のため、2008年から2013年データで算出
※2 欧州委員会によるインフレ率に関する統計データ入手不可のため、世界銀行によるデータを使用。そのため、2014年データはあるものの、暫定的な2014年インフレーション率は世界銀行データでは算出不可能であるため、2013年までのデータをもとに算出した数値となっている。
〔補足〕
尚、特にイングランドの助成に限っては、35%削減となっているが、これは2012学事年度(以下「年度」)の学費上限値上げに伴って授業料の収入が大幅に上がったことを受け教育助成金が段階的に大幅削減されていることが影響しているとEUAは見ている。教育助成金は、2011年度は高等教育に対する助成額全体の64%を占めていたが、2015年度には17%までに下がっている。HEFCEによれば大学教育に係る収入は、留学生からの授業料や学生ローンその他から併せて、2010年度の£130億から2014年度には£150億へと£20億増加する見込みとなっている。
URL1: http://www.eua.be/News/14-10-10/EUA_2014_Public_Funding_Observatory_outlines_trends_in_public_funding_to_universities_in_Europe.aspx