【ニュース・イギリス】ビジネス・イノベーション・技能省(BIS)が高等教育改革の素案を発表

 2015年11月6日、ビジネス・イノベーション・技能省(BIS:Department for Business, Innovation and Skills)は高等教育改革の提案書(いわゆる’Green Paper’)「高等教育: 教育の卓越性・社会流動性・学生の選択(Higher education: teaching excellence, social mobility and student choice)」を発表した。このGreen Paperにおける提案は10週にわたり広く意見を求めた上で修正を加えられる。また、ロンドンとシェフィールドで大規模な意見交換会が開催される予定。提案書の概要は以下の通り。

【教育の卓越性】
 教育評価制度(TEF: Teaching Excellence Framework)を創設して、卓越した教育の実践へ向けての強い誘引を形成する。また、どのような教育を受けられるのか、卒業後にどのようなキャリアパスがあり得るのかについて、学生がより多くの情報を得られるようにする。TEFは、学生満足度や学業継続率、就職率などの数字を用いて評価を行う。評価の高い高等教育機関はインフレ率に応じて授業料の値上げができる。
 TEFでは各機関に、従来の学位認定に加えて、Grade Point Average(GPA)制度を奨励する。GPAは最終試験だけでなく、課程途中における学生のパフォーマンスに関して13段階に分かれたポイントを付与するもので、学生が全課程を通じて学業に励むことを促すとともに、雇用者に学生のパフォーマンスについて、より詳細な情報を与える。

【社会流動性】
 2015年度、大学入学者数が記録を更新した。貧困等社会的に不利な背景を持つ学生の全体に占める割合が2009年の13.6%から、2014年には18.2%となっていることを踏まえ、本提案書では、大学が社会流動性の駆動力となるよう様々な提案をしている。
 新設の社会流動性推進部会は、2020年までに社会的に不利な背景を持つ学生の高等教育進学率を倍に、黒人や少数民族出身学生のそれを全体の20%まで引き上げるという首相の目標を達成すべく、それに向けた計画を大学担当相に報告することになっている。
 Office for Fair Access(OFFA: 高等教育への公平なアクセスを保護・促進する役割を担う非政府公的機関)の指針も強化し、入学率だけでなく、入学後の学業継続支援や就職・進学への支援にもてこ入れを図る。

【事務手続きの負担を軽減する/学生局を設置する】
 イングランド高等教育財政会議(HEFCE)とOFFAの統合も含め、教育の質の維持・向上や市場参入、社会流動性など様々な機能を一元化した学生局(Office for Students: OfS)の設置を検討する。はじめて、規制当局がルール決定において学生の関心を重んじることが義務付けられ、学生と納税者に対し対価に見合う教育を保証する責任を負う。
 学生局は、高等教育機関に対して情報公開を要求できる権限が付与される。

【高等教育界への参入ルートを一元化】
 既存の大学と新設高等教育機関が公平に競争できるような場を整備し、参入を希望する機関がスムーズに市場に参入できるようにする。また、新設高等教育機関が学位授与権や「大学」の名称を得るまでのプロセスを短縮する。

【所属機関が閉鎖された場合の学生の保護】
 高等教育機関が市場から退出した場合の学生の保護について取り組む。学生が学業を継続もしくは経済的補償が受けられるよう、全ての高等教育機関に緊急事態用プランの提出を求める。

【研究助成制度の簡略化】
 デュアル・サポート・システム(科学研究資金を高等教育財政会議からの運営費交付金と研究会議等からの競争的資金の2種類の助成で賄う制度)、ハルデイン原則(政府は特定の目的を有する研究のみを監督し、一般的な研究については干渉すべきでないとした原則)、科学的卓越性を維持しつつ、戦略的インパクトを増すための研究基盤の確立を可能にする、より簡略な制度の整備を目指す。英国研究会議(RCUK: Research Council UK)の組織に関する検討項目を列挙し、分野横断的研究への支援と分野間の適切なポートフォリオの構築を訴えたSir Paul Nurse氏(王立協会会長兼フランシス・クリック研究所初代所長)による、「Nurse報告」(URL2 ※2014年12月発表)についても最大限考慮する。また、現在の研究評価制度(Research Excellence Framework: REF)についても、労力と費用を軽減することを検討する。

【他機関の反応】 
・イングランド高等教育財政会議(HEFCE)
政府の提案書におおむね賛同の意を表しており、この提案書に沿ってしっかりと協力して高等教育における教育・研究を高レベルで提供していきたいと述べている(URL3)。

・英国大学協会(UUK: Universities UK)
Dame Julia Goodfellow理事長は、提案書を歓迎しつつ、教育評価制度の新設による労力や費用について懸念を示し、現場での疲弊につながらないような制度作りを考慮するよう求めている。また、新規参入の高等教育機関については、現在の高等教育機関の質の維持に留意することが必要としている。 また、社会流動性についても引き続き努力する旨を確認し、最後に、世界に名高い英国の大学の自律性を守ることを忘れないでほしいと政府に訴えている。

・OFFA(高等教育への公平なアクセスを保護・促進する役割を担う非政府公的機関)
Les Ebdon局長は、政府の提案書を歓迎し、引き続き全力で社会流動性の向上に取り組むと述べている。

・Russell Group(英国の大規模研究型大学24校で構成するグループ)
Wendy Piatt理事長は、英国の高等教育が成功していることを提案書が正しく認識しているとしつつ、大学はその地位に安住することはないし、学生と社会の期待に応える(特に社会流動性について)努力をし続けると強調している。その上で、政府に大学の自律性をしっかりと考慮してほしいと述べている。

URL1: https://www.gov.uk/government/news/student-choice-at-the-heart-of-new-higher-education-reforms
URL2: https://www.gov.uk/government/collections/nurse-review-of-research-councils
URL3: http://www.hefce.ac.uk/news/newsarchive/2015/Name,107131,en.html

地域 西欧
イギリス
取組レベル 政府レベルでの取組
行政機関、組織の運営 組織・ガバナンス・人事、政策・経営・行動計画・評価
大学・研究機関の基本的役割 教育、質の保証
人材育成 入試・学生募集、学生の就職、学生の多様性